New York Metsの本拠地球場へと続く通路の前のゲート入り口に近づくと、開発者であるChad Evans氏の「iPhone 5s」スペースグレイモデルに「シティフィールドへようこそ」というメッセージが表示された。
そこから数歩先、スタジアムの前に、有名な「Mets Home Run Apple」がある。Evans氏がそのランドマークのそばの標識にiPhone 5sを近づけると、Mets Home Run Appleの歴史を詳しく説明する動画の再生が始まった。
スタジアムに入ると別のメッセージが表示された。今回はシティフィールドに初めて訪れたEvans氏に挨拶をするメッセージだ。同スタジアムは来場者の訪問回数を「把握」しており、例えば10回来場したファンに特別なクーポンや割引を送信することができる。
「ファンによりよいサービスを提供するために、位置情報と履歴に関する情報を利用している」(Evans氏)
このデモはAppleの「iOS 7」の新機能「iBeacon」を利用するさまざまな位置情報ベースサービスの一部だ。iBeaconは複数のビーコン(25セント硬貨より少し大きくて分厚い小型の円盤)を使用し、Bluetoothの信号を発信して、携帯電話の正確な位置を特定する。iOS 7の視覚面における刷新の陰に隠れて、iBeaconはあまり注目されていないが、野球場からショッピングモールまで、あらゆる場所での体験を変える可能性を秘めている。それは刺激的でもあり、恐ろしくもある可能性だ。
MLB.comはこの数カ月、iBeaconを「MLB.com At the Ballpark」アプリと連携させるテストを行ってきた。MLB.com At the BallparkがiBeaconにアクセスするためには、少なくとも同アプリをバックグランドで実行しておく必要がある。iBeaconの目的は、情報やクーポン、ユーザーの現在地に関連するほかのメディアをパートナーが配信できるようにすることだ。シティフィールドでは、簡単な挨拶のメッセージからスタジアムストアでの割引まで、あらゆる情報が配信される。
iBeaconに取り組んでいる組織はMLB.comだけではない。ほかにもStarbucks、Macy's、American Airlinesといった著名企業がテストしている。
通して見ると、Appleが位置情報、さらにはモバイルコマースで目指している方向性や、近距離無線通信(NFC)などの類似テクノロジの採用をこれまで敬遠してきた理由が、何となく分かる(競合企業の多くは、NFCを利用してモバイル決済を提供している)。
位置情報ベースサービスの話題は、慎重を要する議論になることが往々にしてある。小売業者は店のそばを通りかかった消費者をターゲットにするというアイデアを大いに気に入っているが、個人について多くを知りすぎることには本質的に不安が伴う。お得情報は大歓迎という人もいれば、誰かに自分の行動を追跡されていると考えるだけで不快感を覚える人もいるだろう。「オプトイン」というアイデアが頻繁に提案されている。MLB.comも例外ではない。
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