韓国ネット市場の現状と機会 - (page 2)

海老原秀幸(CyberAgent Ventures, Inc. ソウル事務所代表)2013年06月25日 08時30分

 「大統領が代わると全てが変わる」と聞いてはいたが、ここ数ヶ月の間の政府によるベンチャー企業への支援体制を見ると、それが事実であると認識せざるを得ないようだ。前大統領が大企業優遇志向であったため、大統領選の段階から大企業から中小企業やベンチャーの育成支援に方向性がシフトすると見られていたが、実際に政権交替後には新産業の振興支援を目的とした未来創造科学部を設け、ICT分野を戦略産業のひとつとして位置づけている。最近1~2ヶ月の間でも中小企業への支援として約10兆KRWの投入が決定されている。その支援内容は多岐に渡り、融資枠の拡大から知的財産の保護支援を目的としたもの、スタートアップ企業への直接投資など様々である。

 また、大手企業もIT分野のスタートアップ育成に力を入れ始めており、SKやKTなどの大手キャリアやポスコ、現代などの異業種の大企業も投資子会社を持ち、インターネットビジネス分野への投資を進めている。

 日本と同様にシードアクセラレーターやエンジェル投資家も存在し、政府の支援金ともあわせれば1年~1年半程度の資金は比較的調達しやすい環境であると言えるであろう。最近ではスタートアップ向けのイベントやカンファレンスが余りにも多すぎてキャッチアップが難しい程だ。イグジット環境においても、KONEX(仮称)というベンチャー向けの株式市場が開設される予定で、国をあげての環境整備が進んでいる。まさに2000年初頭のベンチャーブーム再来である。ただし、前回はインターネットが新産業として確立する以前のブームアップであったのに対し、今回、インターネットビジネスは成長産業として確立しており、そこに更にスマートフォンというグローバルでスケーラビリティのあるビジネスプラットフォームが加わったという点で、その可能性と規模は前回とは比較出来ない程大きいものになるのではないかと期待している。

外部環境、ビジネス環境が類似する日本と韓国。両国を見る事でネットビジネスの未来がより明確に。

 さて、ここまで幾つか事例や数値を出して韓国のネットビジネス市場について説明をしてきた訳であるが、個人的にはネットビジネスを取り巻く外部環境に関しては、日本との間に大きなギャップは感じない。ネット回線のインフラも強固で決済手段も全く問題なく、クレジットカードの浸透は日本よりも明らかに高い環境だ。

 スタートアップが手掛けるビジネスに関しても日本にあるサービスはほぼ韓国にも存在しており、両者に特別な差は無く、両者にあるのは競合環境やマーケットの大きさ、文化的な違いによる進化速度の差である。

 文化的にも同じアジアということで近似している点も多いため、韓国を見る事で日本のネットビジネスのこれからが分かる事も有り、日本を見る事で韓国が分かる事もある関係性では無いかと思う。日本のネット企業の方々も韓国市場に参入するかしないかは別にして韓国市場に目を向けることで得られるものが有ると思うので、興味を持って頂ければ幸いだ。

◇筆者紹介
海老原秀幸
海老原秀幸:CyberAgent Ventures, Inc. ソウル事務所代表
マーケティングコンサルティング会社を経て、2005年6月、(株)サイバーエージェント・インベストメント(現(株)サイバーエージェント・ベンチャーズ)入社。投資先に出向し、常勤役員として戦略立案からオペレーション改善等のハンズオン業務に携わる。その後は国内スタートアップ・アーリーベンチャー企業への投資活動及び経営支援業務に従事。2012年10月よりソウルに駐在。ソウル事務所代表として韓国企業への投資及び投資後の経営支援、海外進出支援業務に従事、現在に至る。
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本稿はRasing Asiaの「韓国ネット市場の現状と機会」の転載です。

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