ガートナージャパンは、4月24日~26日に「ITインフラストラクチャ&データセンターサミット2013」を東京・港区で開催した。
今回のテーマは「テクノロジ革新のとき:備え、実践を開始せよ」。モバイル、クラウドコンピューティング、ビッグデータなどのような、新しい発想や技術がもたらすイノベーションは、企業のITインフラに多大な影響を及ぼしており、従来の資産の延長だけでは実現できない新しい価値の創造が期待されている。このサミットでは、企業がこの潮流を的確に捉えるとともに、適切な時期に、その成果を導入するために必要となるインフラ戦略に関して議論する。
初日の基調講演には、ガートナー リサーチ バイス プレジデント 兼 最上級アナリストの亦賀忠明氏が登壇し、今回のテーマである「テクノロジ革新のとき:備え、実践を開始せよ」に沿って、企業はどのようなテクノロジトレンドに注目すべきか、主要なテクノロジトレンドは、企業インフラをどのように変えるか、企業やIT部門の人々は何をすべきかについて論じた。
亦賀氏は「ビジネスの主要課題が、業務の維持とコスト削減だけになってはいないか」と問うた。無論、これらは重要だが「技術が進化し、大きな変革が起きているなか、世界規模で社会が変わろうとしてる。このような潮流をうまくとらえてチャレンジすると、新たなビジネスチャンスになる」と語った。
メインフレームやクライアントサーバの時代を経てITが進化し、クラウドの時代が来ている。亦賀氏は「クラウドの潜在力は産業革命を起こす可能性を持っている」と指摘する。すべてのものがクラウドとつながるようになると「コンシューマーは、必要なときに必要なものやサービスを高品質で入手したいと望む。これらは技術により提供が可能になり、それができる企業が勝ち残っていく。このような状況が実現すれば、まさに産業革命だ」(亦賀氏)
亦賀氏は「技術が大きく進化しているなか、IT部門は仕事の70%が既存システムの維持管理に追われている。これからは、新しいイノベーションに時間を割いていかなければならない」と強調した。
今後、未来をどのように創造していくか。亦賀氏は「従来の業務中心の発想を変え、ビジネス自体を再設計し、テクノロジファーストにしていくべきだ。アイディアを生かし、できるところから試行的実践を始め、未来を考える日をつくるとよい」と提案した。
亦賀氏に続いて基調講演したのは、ガートナー リサーチ バイス プレジデントのエド・ホルブ氏。「ビジネスの成長をもたらすプロジェクトの実現」と題し、ビジネスの成長を支援する潜在力を制限する要因は何か、どうすれば成長に備えることができるか、ITインフラストラクチャとオペレーションに影響するプロジェクト・デリバリにおける変革トレンドは何かについて解説した。
ホルブ氏は「個人が企業の成長を促進しろというプレッシャーを受けるなか、IT部門も成長に寄与するようにとの要求を突きつけられている。IT部門は、企業内で現場のニーズがわかっていないと思われている。スピードが必要といわれても、IT部門は安定運用を優先させるため、融通がきかないとも思われている。インフラとオペレーションは氷山のようなもので、複雑な部分は目に見えない。問題が発生するとそれが顕在化し、すぐに直せと攻められる」と指摘する。
IT部門が理解され、戦略的に位置づけられるには、どうすれば良いか。「ITの専門用語をビジネス用語に置き換えることで、信頼度が上がる。『ERPを導入しよう』ではなく、『ビジネスプロセスを改善しよう』というように、ビジネスで意味のある言葉を使うことが重要だ」という。
さらに、ホルブ氏は「プロジェクトは着想から実行まで時間がかかる。これまでの方法論では必ずしもうまくいかない。いまのITは常に変化している。大きなプロジェクトをいっぺんにやるのではなく、小さなプロジェクトを次々にすることが肝要だ。スピードとアジリティが重要になる。コスト削減だけでは勝てない」と話す。
成長のためのプロジェクト実現についてホルブ氏は、「成功のいろは、取扱説明書のようなものはないが、恐れることなく進み、俊敏性と管理のバランスを取り、リスクをうまく対処してチームワークを奨励する事が重要になる」と述べた。
ゲスト基調講演には、独立行政法人理化学研究所 計算科学研究機構長の平尾公彦氏が「『京』コンピュータがひらく新しい世界」と題し、京コンピュータが開く新たな可能性について解説した。
この20年で、日本の国際競争力やGDPが低下するなか、平尾氏は「日本は独自の感性をもち、科学技術やソフトパワーにより世界に発信していくべき」とする。
スーパーコンピュータも、かつての世界一から大きく後退してしまったため、それを挽回するため、2006年に京のプロジェクトが開始された。これが奏功し、京は2011年に世界王座の地位を取り戻した。京の用途は多様な場が考えられるが、平尾氏は「日本では、いまだ産業分野での利用が少ない」と強調する。京の処理能力によるシミュレーションは、限りなく幅広い場面で活かされている。より精密な気象分析やタンパク質の構造解析、創薬、心臓機能の分析など医療、また地震や津波など防災、ものづくりなど枚挙にいとまがない。
平尾氏は「京を作り出した技術と、これを担った優れた人材で世界をリードしていくチャンスがきている。強力なシミュレーションの力は、未来を切り開く基盤技術となる」と述べた。
このほか、富士通 統合商品戦略本部 シニア・バイス・プレジデントの谷村勝博氏が 「富士通の垂直統合型製品への取り組み~ITインフラの構築・運用負荷を軽減~」について、 NTTコミュニケーションズ 経営企画部 サービス戦略担当担当部長の金井俊夫氏がNTTコミュニケーションズの「グローバルクラウドビジョン」について、ガートナー リサーチ バイス プレジデント 兼 ガートナー フェローのスティーブ・プレンティス氏が「2017年までの展望 ~先進トレンドを捉える!~」について、それぞれ講演した。
4月25日は、基調講演としてガートナー リサーチリサーチ ディレクターの鈴木雅喜氏による「ビッグ・データの現実と未来」、ガートナー リサーチバイス プレジデント 兼 ガートナー フェローのスティーブ・プレンティスによる「今後5年間でITに影響を与える最重要トレンドとテクノロジ」、セブンネットショッピング社長の鈴木康弘氏による「セブン&アイのネット戦略」などが予定されている。
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