テレビショッピングや、玩具売り上げと密接に結びついた番組、コンテンツ販売など、二次的なビジネスの例外はあるにせよ、放送事業における視聴者の顧客単価とは、大雑把にいってテレビCMによる広告収入を視聴者数で割ったものになるのでしょう。そして利益率を上げるには、コストを削減するか、スポンサーのCM単価を上げるか、視聴者からの収益を増やすかのいずれかが直接的な手段になると考えられます。
視聴者の顧客単価向上を目指す、とは、視聴者に「テレビを見る」以外の行動を取ってもらうことで収益をあげようという考え方です。「テレビを見る以外の行動」には、例えば、商品(EC、デジタルコンテンツ)を買う、スポンサーにとってより付加価値の高い行動を取る(スポンサーサイトの会員登録やキャンペーン参加)などが考えられます。
このモデルは、最終的には視聴率の向上を目指すため、大規模なリーチが必要である1(リアルタイム視聴へ視聴者数を誘導する)の案よりは敷居が低いと考えられます。数十件程度のコンバージョンに必要なリーチが確保できれば、あとは効率化を進め、投資対効果が見合う(獲得したユーザーの年間累計ARPがユーザー獲得コストを下回る)ことが分かれば規模を追求できます。
このような「テレビを見る」以外の行動を特にオンラインで取ってもらおうという考え方を、業界では「T2O(TV to Online)」というようです。
T2Oの実現には、テレビとオンラインという「メディアの壁」と、テレビで放送している情報がすぐにオンラインでアクセスできるよう同期的にコンテンツをマネジメントしなければない「アクセシビリティの壁」を超える必要があります。
「メディアの壁」を超えるためのソリューションは、例えば「ながら視聴」です。テレビを見ている時に、同時に使われるWEBサービスであればそこにメディアの壁は存在しません。ソーシャルTVサービスがテレビと同期したコンテンツを扱っているのは、このながら視聴を生み出す必然性によるものだと考えられます。
もしくは、ソーシャルメディアやTwitterアカウントでユーザー個人と直接エンゲージするAlways on戦略がソリューションになるかもしれません。
このモデルを展開するためには、既にコンバージョンが発生するビジネスを展開している事業者が有利だと考えられます。特に、テレビと関連性が強く、オンラインで完結するタイプの商材であればビジネスの実現可能性はずっと高まるでしょう。そういう意味では、グリーが提供するemoconなどは積極的な展開が考えられるかも知れません。
例えば、グリーのゲームに関するCMが流れてから10分以内にアクセスすることで、特別なインセンティブがある、もしくはその内容をソーシャルメディアでシェアすることでインセンティブがある――。ちょっと考えただけでもいろいろアイデアはありそうです。また、プラットフォームとしてのemoconがきちんと育つのであればゲーム以外を包括するコミュニティへ成長させる足がかりをつかむ可能性もあるでしょう。
オンラインとオフラインの間に横たわるメディアの壁を超えたら、次はユーザーと適切な情報をマッチングさせる必要があります。ここに至ってGoogleで検索されてしまっては、わざわざアプリをばらまいてまで最初の接点を開拓する意味がないわけです。テレビによって喚起されたユーザーニーズとコンテンツをマッチさせることで、はじめてコンバージョンに寄与する流れを作り出すことができます。
「後メタ」とは、テレビで放送された内容を見ながら手動で打ち込んでいくメタデータです。業界では、エム・データなどがテレビで放送された番組に対して出演者や紹介された商品、センチメントなどを最短5分程度でCSVデータとして提供するビジネスを行なっています。テレビで放送され、喚起された需要へ即座にリーチすることができればコンバージョンは飛躍的に跳ね上がるでしょう。
また、プラットイーズなどが番組制作会社向けに提供している営放システムには、番組制作に必要な番組情報、権利情報、編成スケジュールなどが放送に先駆けて入力されています。このような、放送前に入力されるメタデータを「先メタ」と呼びます。コンテンツホルダーであれば、先メタの活用でジャスト・イン・タイムなアプローチが可能になるかもしれません。
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