ソーシャルTVサービスとは何か

ソーシャルTVサービスのビジネスモデルと可能性(2) - (page 4)

許 直人(ループス・コミュニケーションズ)2013年01月11日 10時00分
4.広告効果の最適化

 これは、伝統的なメディアミックスの考え方の延長線上にソーシャルTVサービスを位置付けるものです。

 テレビ局の放送事業収益の大部分、およそ7割以上はスポンサー企業からの広告収入です(各局IR資料より)。逆に言えば、スポンサーの広告宣伝に寄与する限りビジネスは維持・拡大できるということになります。

 この考え方に基づいて、例えばテレビ番組ではリーチできない層をカバーしたり、特定セグメントにおける視聴時間の減少を補ったり、番組コンテンツのネットにおける露出最大化に貢献することで、スポンサーの宣伝効果最大化を目指します。

 収益化のイメージとしては、例えば、スポンサーが自社商品の宣伝を5億円でやる。そのうち4.5億円がテレビCMの媒体費(CM制作費4500万円含む)、5000万円がプラットフォーム化されたソーシャルTVアプリの利用料+α……。のような感じでしょうか。

 真相は定かではありませんが、一説によればHUT(Households Using Television、総世帯視聴率)は減少傾向にあるといわれています。また、生活者の接触メディア動向は姓・年代によって大きく異なってきます。


※クリックすると拡大画像が見られます

 上記は、ビデオリサーチインタラクティブが2012年6月に東京30km圏内にすむ10-69歳の男女2030人に対して実施した調査の一部です。女性の総メディア接触時間におけるテレビ利用割合とモバイルメディア利用割合は見事に相反しています。

 これはつまり、10代、20代に対して広く効果的に広告宣伝を実施しようと思った場合、テレビ・モバイルのどちらか一方だけでは網羅的なリーチができず、最初からクロスメディアを前提に考える必要性を示しています。視聴率を調査するビデオリサーチでも、Twitterでの番組に対する言及数を指標化する研究に着手するなど、この動きは今年もさらに加速していきそうです。

 ただし、博報堂DYMPの調査にもある通り、性年代に加え地域によるメディア接触の違いも大きいことからメディアミックスにおけるコスト配分はケースバイケースであるべきでしょう。

 広告宣伝ではありませんが、テレビ番組としては、BSフジで放送されている「ソーシャルTV ザ・コンパス」は、テレビ放送に加えてニコニコ生放送(ニコニコンパス)、番組Facebookページでのコメント募集と複数チャネルの並行運用に実験的に取り組んでいます。私もソーシャルメディアの運営アドバイザーとして参加していますが、テレビ番組が、番組という枠を超え視聴者参加型コミュニティに発展する可能性を模索する同番組の取り組みには注目したいところです。

テレビの力は揺るがない、むしろネットとの相乗効果を期待したい

 日本におけるテレビ業界の規模は2兆7874億円と言われています(業界動向サーチの独自調査)。また、1年間にテレビ広告へ投じられる資金は約1.7兆円。日本の広告費の約3割を占める金額です。

 テレビ業界がこれほど大きな市場であるのは、細かい理由を抜きにすると大きく2つの理由があると思います。どちらも多くの日本人にとっては当たり前のことです。

 1つが全国約5000万世帯、普及率約98%(内閣府消費動向調査)という圧倒的なリーチです。企業が広く日本国民に対して広告・宣伝を行うのにこれ以上のカバレッジを持ったチャネルはありません。続いて、1日あたり平均161.4分(博報堂DYMP)という視聴時間の長さが挙げられます。これは新聞・雑誌・インターネットも含む全メディア接触時間の約半分を占めます。

 このほかにも、映像メディアの訴求力やリアルタイム視聴におけるスキップのしづらさなどさまざまな要因が考えられます。ただ、ここで確認しておきたいのは、要するにテレビ業界は巨大で、その事業の根幹である放送事業は多くの企業の広告費が占める割合が大きい。そして、企業がそこまで多くの広告費を投じるのは前述の通り「圧倒的な到達力」と生活者の「接触時間の長さ」であるという点です。

 テレビの力の根幹はその「到達力」と「接触時間の長さ」ですが、その2点においてテレビに次ぐ存在になってきているのがインターネットです。

 PCや携帯、スマートフォンを合算した日本におけるインターネット利用者の割合は79.1%(総務省)。メディア接触時間では全メディアの27.7%(博報堂DYMP調査「アベレージニッポン」より)と年々増加する傾向にあります。20代男性のように、4マスの合計接触時間よりもインターネットを長く使うクラスタも出てきました。

 ただ、接触時間の何割かがネットに流れたとしても、端末普及率に裏打ちされたブロードリーチは揺らぐことはなく、7チャンネルによる流通の寡占という状況は今後も続くでしょう。むしろ後者は、インターネットという情報の洪水に辟易した人たちにとってはシンプルな選択肢と質の高い状況という新たな付加価値として映るかもしれません。

テレビとソーシャルテレビの補完関係

 このように考えると、テレビの接触時間がインターネットにすべて置き換えられるという可能性はまだしばらくはないような気がします。それよりも、今回挙げたようないくつかのパターンで、テレビとインターネットという異なるチャネルがぎこちないながらも融合していく、予定調和な方向性がしばらくは続くのでしょう(いつかはイノベーションですべてが破壊されるのだとしても)。

 このような動きを、生活者への効率的なリーチとマッチングととらえれば選択肢は膨大です。それはどのようなパターンか、プレーヤーはだれなのか。考えてみると面白いのではないでしょうか。

ソーシャルTVサービスのビジネスモデルと可能性(1)

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許 直人
株式会社ループス・コミュニケーションズ
「In the looop」編集長
1978年生まれ。ソーシャルメディアを中心とした情報サイト「In the looop(イン・ザ・ループ)」編集長。個別企業に対して、ソーシャルメディアを活用した新規事業構築や運用プロジェクトのマネジメントについての支援業務にも携わる。プロジェクトマネージャおよびシステムエンジニアの経験を持ち、ループスでは主に大規模システム開発案件のマネジメントに従事。アジャイルと計画駆動型マネジメントの両立を模索した。開発言語はJ2EE、J2SE、PHP、Ruby、ColdFusion、COBOLなどを経験。WEBシステム、マーケティングなど多様な視点から次世代に求められる顧客コミュニケーションのあり方を日々模索している。FacebookTwitterでも積極的に発信している。

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