スロバキアのウイルス対策ソフトメーカーであるESETの最高経営責任者(CEO)Richard Marko氏が来日し、マルウェアの最新動向を解説するとともに、日本での事業展開について語った。
ESETは1992年の設立で、今年25年目を迎える。新種や亜種のマルウェア検出技術のパイオニア企業とされ、「ESET NOD32 Antivirus」などの製品は、全世界で1億人以上の利用者がいるという。
また、本社があるスロバキアのブラティスラバのほか、米サンディエゴ、アルゼンチンのブエノスアイレス、シンガポールに流通拠点を設置。世界10カ所にマルウェア研究開発センターを配置し、全世界180カ国で事業を展開しているという。
日本では2003年からキヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)が国内総販売代理店を務めており、個人向けセキュリティソフト市場においても、2012年11月には約10%のシェアを獲得しているという。
日本では13万2000社での販売実績があり、製造、医療、教育機関などで多くの実績がある。
「2008年からの年平均成長率は141%。BtoCではハイアマチュアを中心に口コミで広がり、BtoBではキヤノンMJグループの販路を活用して中堅・中小企業向けに対面販売で提供しているほか、直販でも大手企業や大学などで大量導入が進んでいる」(キヤノンITソリューションズ 執行役員 プロダクトソリューション事業本部長の楢林知樹氏)という。
また、アスキー総合研究所が実施したウイルス対策ソフト満足度調査で、12項目中11項目でナンバーワンの評価を得ているという。
ESETのマルコCEOは、「当社は多くの研究開発者を擁しており、事業の成長は世界最高水準の卓越した技術が支えている。コンピュータウイルス関連の国際紙であるVirus Bulletinのウイルス検出100%アワードにおいて、業界最多の76回の受賞を得ていることからもそれが証明される。当社の技術を活用することで、GPS機能を持たないノートPCが盗難された場合でも地図上に場所を表示できるほか、アンチフィッシング機能や、ソーシャルネットワークからのウイルス感染を防ぐためにFacebookに対応したソーシャルメディアスキャナーといった新機能がある。さらに様々なプラットフォームの脅威にも対応するため、Windows版のほかにMac対応版も投入。『ESET MOBILE SECURITY』としてAndroid版も投入した。現在、英国、フランス、ドイツ、日本、中南米、米国でシェアを急速な勢いで拡大している」などとした。
また、ESETのウイルスラボ責任者でチーフ・リサーチ・オフィサー(CRO)のJuraj Malcho(ユライ・マルホ)氏は、脅威に対する最新動向について言及した。
「2012年のマルウェアはトロイの木馬型のものが多く、不正に金銭を搾取するという被害も多かったのが特徴。また、遠隔操作ウイルスやネットバンキングの偽画面表示ウイルスなどのマルウェア脅威が深刻化している。全世界では、最も多いウイルスに対してユーザー全体の0.39%が被害を受けたとしているが、日本では被害を受けた企業は0.05%であり、サイバー脅威に対して関心が高いことが裏付けられる」とする一方、「従来型の検知技術とLIVE GRIDをはじめとする新たな検知技術を組み合わせることで、様々な脅威に対応できる。自動化することにも積極的に取り組んでいる。毎日30種類の新たな脅威のサンプルを収集し、様々な研究グループとともにデータを集め、このなかから優先順位を決めてユーザーのプロテクションを行っている」などとした。
また、日本語の記述があることから日本生まれのウイルスとされている「Win32/Rabasheeta.A」にも触れ、「Win32/Rabasheeta.Aはスクリーンショットやキーログの収集、ファイルアップデートなどの機能を持つが、これはバッグドア型の脅威であり、その機能自体は珍しいものではない。ただし、世界に広がっているものではないため、標的を絞った形で使われたものだろう。セキュリティ知識、リバースエンジニアリングができないと開発できないウイルスである」などと解説した。
同様に日本から生まれたWin32/Cridexについては、「日本での被害が最も多いが、米国、トルコなどでも被害が出ている」とした。
また、日本で10月28日にインターネットバンキングを対象に被害が発生したMan in the Browser(MITB)攻撃については、「当社では10月22日頃からすでにその兆候を捉え、マルウェアを発見していた。日本で10月28日に被害が出る前に存在は認識していた。しかし、これは日本だけの問題ではなく、世界に広く影響している。最も多いのはドイツであり、日本は19番目であった」などと語った。
Malcho氏は将来の脅威の動向についても言及し、「Androidは2012年前半から急激に脅威が増加している。日本では電波状況を改善する、あるいはソーラーバッテリーが利用できるなどとして、個人情報を搾取するというAndroidアプリケーションが目立っている。また、世界的には金銭を搾取するような動きも出ており、英国では身代金が100ポンドに達するものまで出ている。こうしたものは増えていく傾向にある」などと述べた。
一方、日本におけるESETの事業戦略はキヤノンITSの楢林氏が説明した。
同社では「ESETセキュリティソフトウェアシリーズを、キヤノンITSのセキュリティソリューションにおいてエンドポイントセキュリティの中核を担う製品」と位置づけ、「ヒューリスティック技術の活用によって未知の脅威に対する検出を含む高い検出率が評価されたこと、PCが若返るといわれるほど動作が軽快であることが高い評価につながっている」としたほか、「2015年に(シェア)10%を目指すとしたが、11月に10%を突破した。Amazonで低価格で販売するキャンペーンを開始したことが大きく貢献した。セキュリティソフト市場は成熟市場といわれているが、プランなどによって大きくシェアが動くことがわかった。値頃感のある設定をすれば、まだ需要は伸びる」とした。
さらに「今後、スマートフォンがノートPCの3倍売れているという状況などをみると、この分野がターゲットになってくる。BYODも議論されており、ESETとともに、こうした分野での製品戦略を強化したい」などと語った。
来年早々には投入する個人向けの「SMART SECURITY 6」では、どのプラットフォームでも利用できるユニライセンス方式の採用を明らかにする一方、法人向けでは一括管理が可能な製品を2013年上期に投入。Linuxサーバ向けに提供する計画を明らかにした。
また、個人向け新バージョンの投入にあわせ、モニタープログラムキャンペーンを12月5日からキヤノンITSのサイトを通じて実施するという。
「ESETの技術力を生かす一方、国内総販売代理店であるキヤノングループが日本のなかのベンダーとして寄与し、チャネル、サポート体制を含めて、日本の市場にあわせた形でローカライズしていきたい」とした。
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