小国ゆえに国外から学んできた--ルクセンブルクが日本のスタートアップに熱視線 - (page 2)

 ルクセンブルクの失業率は、他国と比べて極めて低いです。ルクセンブルクの人口は少ないですが、国内労働力の40%は国外から調達しています。つまり、労働者の40%は毎日ルクセンブルクの国境を超えて周辺諸国から通勤しているわけです。

 また、企業が労働者を雇う観点から言うと、ルクセンブルクは他国と比べ、企業が支払う従業員の社会保障費が低く抑えられています。政府は移民法を改正し、スキルのある人材を雇用しやすくしています。企業は若い人を雇用したいと思うでしょうが、データ産業で言えば、セキュリティや信頼性といった分野では、大学の学部が横断して外郭組織を作り、学生をトレーニングしています。2011年11月には国レベルの学生のための就職フェアを開催しました。大学の卒業生が多数集まり、ICTに特化して職業を探すためのよい機会となりました。

--ルクセンブルクの人々にはどのような特徴がありますか。

 ルクセンブルクには、レアアースに代表されるような資源があるわけではないので、イノベーションこそが、この国を特徴づけていると確信しています。先ほど申し上げたように、ルクセンブルクは国外から学ぶことに積極的でした。現在、ルクセンブルクにある大学も、国外から学ぼうとする考え方を持っています。

 実際、これらの大学の生徒の40%は国外出身者です。日本の大学との関係で言えば、ルクセンブルク大学の敷地には上智大学が拠点を設けており、互いに交換留学制度を実施しています。このことからも、ルクセンブルクの人々は、ビジネス面においても、文化においても、非常にオープンマインドな国民性を持っていると思います。

--ICT分野では、どのような企業がルクセンブルクに拠点を置いているのでしょうか。

 Amazonは、ルクセンブルクにヨーロッパ全地域を統括する本部オフィスを開設しました。開設当初は従業員数40人でしたが、現在は400人。さらに50人増やすという話を聞いています。Vodafoneや PayPalなども2年前から、ヨーロッパ・オフィスをルクセンブルクに置いています。韓国のゲームベンチャーであるネクソンも全ヨーロッパ地域の本部をルクセンブルクに置きました。

 ゲーム産業にとっては、ルクセンブルクの多言語環境は、言葉の異なるヨーロッパ各国向けのプロダクトを開発する上で有効に働きます。

 また、ルクセンブルクのインターネットは、高速ブロードバンドでフランクフルト、アムステルダム、ロンドンなどとつながっています。特にオンラインゲーム業界にとっては、ゲームのレスポンス速度の観点から、レイテンシーの問題を考慮する必要がありますが、ルクセンブルクはヨーロッパのほぼ中心に位置していることから、ヨーロッパの各所から4~8ミリ秒以内の応答が実現できており、これはゲーム企業にとっては好都合です。

 そういう事情もあって、ルクセンブルクではデータセンターの数が増えています。データセンターのサーバ設備の数が人口を上回るのではないか、という興味深い話もあるほどです。通信衛星も15機有しているなど、コンテンツ配給もやりやすい環境にあります。

--シンガポールや香港も、かつての金融ハブから、スタートアップのハブへと姿を変えようとしています。シンガポールや香港と比べ、ルクセンブルクのアドバンテージは何でしょうか。

 我々が実施してきた金融政策が功を奏し、ルクセンブルクには100以上の銀行があります。しかし、ルクセンブルクは、いわゆるタックスヘイヴン(租税回避地)ではなく、所得税が低く抑えられた国です。楽天がルクセンブルクにヨーロッパの拠点を設けていますが、所得税が低いことは、特にEコマース産業にとってはよいことですね。

 しかし、ルクセンブルクにやってくる企業には、財務的な理由だけではなく、もっと総合的な理由(人材、多言語環境、地理的優位性)を求めて来てほしいと思います。たとえばシンガポールには、そのような総合的な環境は無いのではないでしょうか。

--ルクセンブルクから生まれた、成功スタートアップを教えてもらえますか。

何よりもSkypeでしょう。また、向こう5年くらいの間には、ルクセンブルク政府が積極的に支援したスタートアップもお目見えするはずです。これからの放送局は、従来のように電波塔を各所に建設するのではなく、通信衛星を使って放送するようになるでしょう。その方が安いからです。しかし、通信衛星の打ち上げに必要な保険は、リスクが高いために民間の保険会社はなかなか引き受けてくれません。ルクセンブルク政府がこのリスクを担保するようにしています。

--自分の生まれた国以外で起業しようとすると、多くがビザの問題にぶつかります。ルクセンブルクは、スタートアップがビザを取得する上で何かしら便宜を図っていますか。

 ルクセンブルクは移民法を変え、労働許可を取得しやすいようにしています。また、「ワンストップ・ポリシー」に則って、複数の省庁が連携することにより、労働許可などの一連の手続を一カ所で済ませられるようになっています。

--ルクセンブルクで開催される、テクノロジー関連イベントはありますか。

政府が支援しているICT分野の国際イベントとして、毎年「ICT Spring」が開催されています。6月のイベントでは楽天が基調講演をしてくれたほか、日本からも数社スタートアップが参加しました(筆者注:カディンチェ洛洛.com;Dcloudが参加)。2013年は6月19日~20日に開催する予定です。

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