Appleの創業者、Steve Jobs氏が亡くなってから10月5日で1年が経った。「早いもの」との声が周りから聞こえてくる一方で、iPhone 5の成功からも、現CEOのTim Cook氏のAppleというイメージも定着しつつある。Steve Jobs氏一周忌の特集として、生前のJobs氏をよく知る人物にエピソードを交えて振り返ってもらう。
ここでは、2004年から2009年まで、米Appleのセールス担当バイスプレジデントおよび日本法人社長を務め、現在はコミュニカ代表取締役の山元賢治氏に話してもらった。
今や何をやっても大成功する会社の代名詞にまで登りつめた“Apple”ですが、Steve Jobsという素晴らしいリーダーがここまで導いてくれたという事実に、誰も疑問の余地はないでしょう。彼のリーダーシップや業績、素敵な人間性には心の底から感謝しています。
10月5日は、世界中のファンが彼に御礼を伝えたい記念日になりましたね。私は日本法人の社長までやらせていただきましたが、今でもSteveのファンです。とにかくカッコいい人物でした。我々のように彼と一緒に仕事をした仲間からすれば、来年以降もずっと御礼を送り続けていく日になることでしょう。今年、私は次の2つの御礼のメッセージを送ることにします。
一つ目はやはり面接で、私をAppleの仲間にしてくれたことに。最初の面接では失礼にも入社を断った私を説得してくれたことに。B2Bの経験しかなかった私に日本を任せると覚悟してくれたことに。御礼を伝えたいです。2004年当時の株価は10ドル。日本のほとんどの人がSteveを今のようには崇拝していない頃でした。
一般的には崩壊する可能性が高い会社のように扱われていました。一部上場企業の専務だった自分は正直迷っていました。もちろん、入社を決めた一番の理由はSteveの凄いオーラでした。それに加えて1対1で話している時の彼は子供っぽさを感じるほどチャーミングでした。本当にAppleでの社長業は大変なことばかりでしたが、そのハードさがたまらなく魅力的な会社でした。
二つ目は、インテルCPUへの切り替えの英断に対しての感謝です。今では、すっかりiPhoneの会社というイメージの強いAppleですが、私が勤めていた2004年から2009年はまさに変革期のど真ん中でした。最近でこそ、カフェなどで見かけるPCの多くがMacになりましたが、当時のマーケットシェアは非常に厳しい状況でした。
あの時もSteveの英断がAppleを救いました。それまでのIBM PowerPCの成長が思うような速度で進まず、Macファンをイライラさせる状況が続いていました。快適なMac環境を実現するため、インテルCPUに全面的に切り替えるという発表がAppleの幹部会議であった時のことを、今でも鮮明に覚えています。1年以内にOSだけでなく、ミドルウェアやアップリケーションなど全ての環境を書き換えるという殺人的な取り組みでした。
これに失敗したらAppleは消滅するかもしれないとSteveの顔も殺気だっていました。そしてApple社員はそれを見事に成し遂げました。信じられないような快適なMac環境をお届けすることが可能になった瞬間でした。私のApple時代の出来事の中で最もタフな挑戦だったと感じています。
幹部会議には、インテルのPaul Otellini CEOがサプライズで登場してくれました。Appleの幹部全員がスタンディングで迎え、大拍手がおこりました。私もなんだか興奮して涙が出てきました。彼は「昔はTV CMでインテルの人形を燃やしてくれてありがとう。それは水に流しました。これからは一緒に前進していきましょう」とのメッセージを我々にくれました。本当に感動の瞬間でした。「アメリカっていいな」と感じた瞬間でもありました。
もしSteveが生きていたら、この一年間でもっとワクワクするような新しい製品やサービスが発表されていたのではないかと、密かに残念に思っている人もいるのではないでしょうか。しかし私は、残ったAppleのメンバーが立派にSteveの意志を引き継ぎ、世界中のAppleファンを喜ばせていることに感動しています。これからもAppleへの世界のファンからの期待はますます大きくなるでしょうが、それに応え続けるAppleであってほしいと応援しています。
彼は天国へ旅立ちましたが、私は一生Steveのファンです。
山元賢治
代表取締役
1959年生まれ、神戸大学工学部卒業。1983年日本IBM入社。1999年5月よりイーエムシージャパン。2001年7月、同社副社長に就任。2004年7月、米アップルコンピュータ セールス担当バイスプレジデント就任。同年10月より、アップルコンピュータ株式会社代表取締役を兼務。2009年9月より現職。現在は、経営コンサルティング、投資活動、ベンチャー企業支援事業等を手掛ける傍ら、自らの経験を活かし、社会人・学生向けの人材育成研修、英語教育に取り組んでいる。主な著書に、『ハイタッチ』、『外資で結果が出せる人、出せない人』(共に日本経済新聞出版社)、『世界でたたかう英語』(ディスカバー21)がある。
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