防災科学技術研究所は、文部科学省所管の独立行政法人で、災害に強い社会を実現する、というミッション主導の活動を行っている。東氏が取り組んでいるのは、2008年以降同研究所が強化している「アウトリーチの方法を変える」ことだ。
「これまで、学会発表やホームページ掲載などが社会還元の方法となってきました。しかしウェブやモバイルの発達のなかで、社会のより多くの人に知ってもらう方法を変えていく必要性があるとして、“IT×防災”というテーマを徹底的に考え、実現していく取り組みをしています」(東氏)
この中で重要なテーマは、個人や地域に向けた防災情報の提供と、データの共有の2点だ。前者は、ハザードマップの公開やアプリ開発、ソーシャルメディアを活用した情報提供、地域メディア開発のプラットホーム提供などの取り組みを行っている。後者についてはより大きな流れになることを狙っている。
「防災情報は、資料となる情報やリアルタイム情報などを含めて、APIで公開して、自由に、また地域や仕事の種類に合わせて使いやすい形でデータを活用して頂けるよう整備を進めています。開発者の方、デザイナーの方、あるいは使う地域にいる方が、どんな情報が必要か、どんな見え方がより良いか、ということが分かっているはずです。また、気象データなど、他のデータとのマッシュアップによって、新たな事実や分析結果が発見できることにもつながります」(東氏)
同時に、こうした情報を公開することによって、市民の間に「見守る人」や「行動する人」が増えることにも期待している。震災前後の強震モニタの経験から得た学びだという。強震モニタは現在、防災科学技術研究所で設置した地震計のリアルタイムデータを2秒間隔で表示しているサービス。2ちゃんねるやUstreamでその様子を見守っている人々がいたり、地震があったらアクセスしてその様子を確認するなど、地震を監視・把握する手段となっている。
「強震モニタは、東日本大震災以前は現在ほど知られたサービスではありませんでした。しかし震災後の余震が続く中、アクセスが集中し、ダウンしてしまいました。そこで、クラウドで絶やさず情報できる体制を整えるべく、まずはUstreamで所内のコンピュータの画面を中継し、アクセス集中に備えました。その後、Googleのクライシスレスポンスチームの協力のもと、クラウドプラットフォームであるGoogle App Engine上に強震モニタを構築することで、地震の度に起こるアクセス集中に対応しました。また、防災科研内にインハウスクラウドシステムを構築し、新しい強震モニタの試験配信を行なっています。ユーザの中にはこれらの情報を使ってサービスを立ち上げる人も出てきています」(東氏)
今後はさらに、二次利用、三次利用の促進もサポートしていく予定だ。同研究所だけでなく、市民を巻き込んだ防災情報の活用と監視の目を増やすことは、IT×防災のモデルとなるのではないだろうか。
「もしゆれ」は、実は東日本大震災以前の2011年2月に行われた震災対策技術展に出展していたそうだ。そしてリリースに向けて最終調整をしていた折に、震災が発生し、リリースする事ができなくなってしまったという。「もう少し早くリリースできていれば」と東氏も悔しさをにじませる。その後東日本大震災の調査から、ハザードマップの状況も様変わりしている。これを反映させて、2012年8月のリリースとなった。
「正常性バイアスというものがあります。自分は大丈夫だろう、と楽観的に解釈することは、災害に対する情報取得を鈍らせ、結果として“想定外”の範囲をより拡げることになってしまいます。災害対策がなされた国土を作ることだけでは、災害は防げません。私たち1人ひとりが、こうした正しくない偏見を越えて、災害に取り組んでいくことが大切です」(東氏)
防災の日をきっかけに、自宅や地域の防災喚起がなされるが、防災の「情報」に関して、より日常的に触れ、「想定」の範囲を拡げておくことが、結果的に自分や家族の身を守ることにつながる。既に整っているツールを活用することはもちろんだが、より必要な情報やツールのリクエストを出すことも、災害に強い国を作る活動に寄与するだろう。
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