9月1日は防災の日だ。1923年に起きた関東大震災をきっかけにして制定され、当日を含む1週間は防災週間として、さまざまな防災に関する訓練や行事が行われる。日本人や日本の都市は、世界から比較すると地震に強いとされている。しかし2011年3月11日に起きた東日本大震災では多大な犠牲者を出し、人々の防災意識をさらに高め、また「まだまだできることがあるはず」という認識を拡げる結果となった。
今回、iPhoneアプリ「もしゆれ」を提供している独立行政法人防災科学技術研究所の東宏樹氏にインタビューした。防災科学技術研究所は、文部科学省所管の独立行政法人で、災害に強い社会を実現する、というミッション主導の活動を行っている。東氏が取り組んでいることの一つは、2008年以降同研究所が強化している「アウトリーチの方法を変える」ことだ。
防災アプリ「もしゆれ」は、今いる場所でアプリを開くと、その場所で震災に遭った際に起きうる事象を表示し、記録していくことができるアプリだ。内側のカメラが起動し、自分の顔に重ねて結果を表示してくれる、少しセンセーションを与える効果もユニークだ。
表示される事象は、「無傷」であることはほとんどなく、情報途絶、火災、建物の倒壊、液状化、そして津波など。実は同じ場所で起動してテストすると、毎回違う結果が表示される仕組みになっているという。これはどういう意味なのか。
「もしゆれで同じ場所でも被害のリスクが複数表示されることは、災害予測の地図、いわゆるハザードマップに対するアンチテーゼでもあります。例えば地震のハザードマップでは、震度の大きさを色で塗り分けて提供していますが、これでは、震度いくつという、ある1つのリスクについての認識しか伝える事ができません。
しかし実際の震災では、例えば液状化と火災、そして津波と、揺れによる被害に加えて副次的な災害が同時に押し寄せてきます。つまり、震災のリスクは1つであることの方がむしろ珍しく、時間差で、あるいは同時に複数のリスクに備える必要があります」(東氏)
ここで、震災の度に聞かれる“想定外”という言葉だ。考えていた以上のことが起きるという意味で使われている。東氏は、この「想定」して決めてしまうことに問題があるとしている。想定してしまうと、それ以上のことに対応できなくなってしまうからだ。
「前回の震災で起きた事象が、次の震災でも同じように起きるとは限りません。震源の場所や深さで揺れ方は違いますし、時間帯によっても影響は変わります。そこで、逆転の発想として、その場所で何が起きるかを想定するのではなく、あり得ないことだけを排除するという考え方にしました。
例えば、高い山の上なのに津波が来ることはないでしょうし、真夏に凍傷になるということもないでしょう。しかし他のことはあり得るという前提で備えておくことが重要なのです」(東氏)
毎回結果が異なる「もしゆれ」アプリで、同じ場所や、良く行く場所で何回か試し結果が変わることで、それぞれの事象について「想像」したりリスクについて「意識」できるようになる。自分が考えている以上のことが起きうる震災の瞬間に備え、想像しうることを理解することが大切なのだ。
またこのアプリは、震災リスクについて、「一番分かってもらいたい人に、一番分かっていてもらえない」(東氏)という情報の逆進性に対処することも目的にしているという。
「若者で災害の事象を知らなかったり、日常的に興味を持っていない人ほど、間違った対策をしたり、対応できないまま過ごしてしまいます。学問として取り組むと非常にハードルの高い分野ですが、これまでの研究がデータとして活用できるため、それを知ってもらう1ステップ目をいかに拡げられるか、に取り組んでいます」(東氏)
App Storeのレビューなどで、「このアプリは占いと違うのか」との批判も見受けられるが、そうした受け入れられ方をされていることも、リーチできた層を知る1つのきっかけとして受け止めているそうだ。防災科学技術研究所は、250m四方ごとに地震の揺れを分析したハザードマップのアプリ「J-SHIS」を既にApp Storeで公開しているが、「もしゆれ」は公開からの1カ月間で、J-SHISのダウンロード数の10倍となったという。
日常の中に防災を意識するフックをちりばめることも、研究データの有効活用の1つの方法となり得るだろう。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス