中高生を対象にした短期集中型のIT開発キャンプ「Life is Tech!」。東京大学や京都大学といった名門大学のキャンパスで、3~5日間にわたりスマートフォンアプリやウェブサイトなどを開発するキャンプで、主に春休みや夏休み期間中に開催されている。
イベントを運営しているのは、2010年7月に設立されたピスチャー。米国で行われていた子どもを対象にしたテクノロジーキャンプに刺激を受けた創業メンバーが、「日本にもIT教育が必要だ」と奮い立ち、2011年夏から国内でIT開発キャンプを実施している。初回は50人前後だった参加者も、2012年のサマーキャンプでは約300人と6倍近くに増加しているという。
受講できるコースは、iPhoneアプリ開発、Androidアプリ開発、ウェブプログラミング、2Dゲームデザイン、3Dゲームデザイン、アニメーションデザインなどさまざま。応募者は好みのコースを選んでキャンプに参加できる。各コースに共通しているのは、最初に“モノを作る”ということ。たとえば、iPhoneアプリのコースでは時計のアプリを作るが、すでにサンプルコードが用意されており、画像を入れ替えるだけでアプリを作ることができる。
「そうすることで、参加者にまず『アプリってこんなに簡単に作れるんだ』という発見を与えることができる。アルゴリズムなどを教えるのは、その次の段階」と、ピスチャー取締役副社長 CCOの小森勇太氏はカリキュラムについて説明する。
開発中は、中高生5人につき1人の大学生スタッフがメンターとしてつき、それぞれの参加者の進捗に合わせてカリキュラムを進めていく。プログラミングが得意そうな人には、より高度なアプリを、逆にプログラミングが苦手という人にはデザインを重視したアプリを作ってもらう。
同社はD2Cと協業しており、上級者は成果物の発表の場として、D2Cが開催するアプリ開発コンテスト「アプリ甲子園」にアプリをエントリーする。審査員によって、独創性や操作性などが評価された優秀なアプリの開発者には、iMacやタブレット端末などの賞品が贈られるという。
「昨年準優勝した『i弁当』は、Life is Tech!の参加チームが開発したアプリですが、これはお母さんに作ってほしい弁当のおかずを送って、そこにクックパッドのレシピを表示するというアプリです。そこまでされるとお母さんも作るしかないですよね(笑)。これは多分普通の大人は発想しないアイデアだと思います」(小森氏)
同社では開発キャンプ以外の期間中に、中学校や高校などでITの特別講義を行っている。7月には品川女子学院と共同で、iPadを活用した英語の授業を実施。Facebookのプロフィールを英語で登録するという内容で、クラスメイト同士で情報を共有するなど、「子ども達から情報発信できる授業」が実現したという。
小森氏は同社がこれらの取り組みを実施する背景として、日本が抱えるIT教育の問題点を挙げる。「日本の学校ではカリキュラムが整備されておらず、特に『情報』という授業が先生に依存してしまっています。先進的な先生は、どんどんiPadを取り入れたり、新しい授業をされていますが、PCが苦手な先生がいたりすると、WordとExcelを教えておしまいということも少なくありません」(小森氏)
また、米国をはじめとした海外の先進国と比べても、日本のIT教育は遅れていると指摘する。「米国では、たとえばビートルズの曲に合わせたFlashアニメーションをパーツごとに生徒が作って、最後にそれらをつなげて1つの作品にするといった授業が普通に行われています。日本の教育では、そういった“モノを作ってアウトプットさせる”ことを、あまりさせていないという印象があります。Wordなどもそうですが“使い方を教える”ところに重きを置いているというか、作品を作るためではなく、便利だから覚えておいてねという教え方をしているところが、そもそも違うのかなと思っています」(小森氏)
小森氏は、Life is Tech!などの活動を通じて、子どものIT教育の場を増やしていくことで、日本ならではの価値のあるサービスやビジネスを生み出していける社会を作っていきたいと話す。
「やはり“美”に対する高い意識や、センスというのは日本人特有だと思います。もし日本中の子どもたちにITの基本的なモノを作る力がついて、自分のアイデアを具現できるようになれば、本当に良い作品やサービスが生まれて、日本自体が変わるんじゃないかと思ってます。そのきっかけを与えるということを日本中でやっていかないと、ITを身につけようという人も増えていかないと思います」(小森氏)
イメージは日本の「プロ野球」だ。プロの選手になるための登竜門である甲子園に出場するために、子どもたちが小さい頃から努力し、その様子を日本中で応援する「野球」のような仕組みをITの世界でも構築したいという。
「アプリ甲子園に参加するために、何万人という子どもが切磋琢磨して、甲子園で優勝したり、いい成績を残したりしたら、各企業がその子に対してドラフトのようにオファーを出す。そんな世界ができれば、エンジニアやプログラマーの価値もぐっと上がるし、グローバルに活躍するIT人材も育つのではないでしょうか」(小森氏)
現在は、東京大学、慶應義塾大学SFC、京都大学、九州大学の4大学で開催されているLife is Tech!。小森氏は、今後も開催地を増やしていくとともに、特別講義などを通じて学校教育にITを浸透させていくことで、「いろいろな場でITに興味を持つきっかけづくりをしていきたい」と語った。
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