プロモーション上でソーシャルメディアの果たす役割が、より今日的になるのは、FacebookがMySpaceを抜いて世界一のSNSになり、日本ではTwitterが急速に普及し、「なう」が流行語に選ばれた2009年頃である。
FacebookやTwitterが、従来からあるブログなどのソーシャルメディアと違うのは、マスと同じ「プッシュ型」の特徴を持っているところだ。
今までは自分で探さないと見つける事ができなかった「クチコミ」が、自身のソーシャルグラフ上に飛び込んでくるようになり、マスが担当していたAttention(注意)、Interest(関心)にも、ソーシャルメディアが影響を与えるようになってきた。
またもうひとつの大きな変化は、クチコミの発信者が、今までの「商品を購入した人」から「商品に共感した人」に一気に拡張した事である。
友人が遊びでツイートする「ドロリッチなう」や「バルス」というツイート、Facebook上にアップされた「ランニング時の写真で着ていたウェア」、好きなキャラクターのFacebookページへの「いいね!」など。そして、それら全てに対する友人のいいね!やリツイート。
商品のプロモーション情報でも、レビューでもない、友人や知人に対する「共感」が情報として伝播するようになり、「意図せざる推奨」(※2)として商品の購買に至る各段階に関与するようになってきた。
ちなみに、消費行動におけるクチコミ効果の調査をFacebookとニールセンが2010年に行っている。ブランドの露出を広告と友人のフィード、それぞれで行い、比較計測したその調査では、友人のフィードでの露出からブランドを認知した人の割合は広告の3倍、さらに購入意思を持った人の割合は同4倍という結果が出ている。
今日のコミュニケーション設計では、購入者のレビュー生成に加え、いかに「共感」を産みやすい物語を設計し、購入者以外の共感者を巻き込んでいくかが重要になってきている。
では、これからは、「プッシュ性」と「プル性」を兼ね備えたソーシャルメディアだけでプロモーションをすればいいかと言うと、必ずしもそうとは言い切れない。日本特有の背景を十分に考慮する必要がある。
例えば、アメリカでは、すべてのオンライン広告の3分の1がFacebookに掲出されており、日本よりソーシャルメディアがプロモーションに活用されるボリュームは、はるかに大きい。
だが、その背景にはソーシャルメディアの利用者が増えているというトレンドだけでなく、アメリカ特有の事情もあると考えられる。
アメリカでは、広い国土や多数の言語、さらに数十にも及ぶ多チャンネルケーブルTVという環境的背景があり、一括した情報の伝達が難しい。このアメリカ特有の事情と、ソーシャルメディアが新しい「プッシュ性」のメディアとして注目されている状況は、無関係とは言えないだろう。
一方日本は単一民族で構成され、テレビのチャンネル数も少なく、アメリカよりもはるかにマス広告が有効な土壌と言える。
若年層のテレビ離れが進むなど、大きなトレンドでは日本のテレビの影響力も縮小しているかもしれないが、依然としてマス広告の認知パワーは高く、今日の広告の現場でも数千万人に情報をリーチさせる手段としては、ほぼ唯一の手段と言える。
日本でのソーシャルメディアの活用は、マス広告の広いリーチと組み合わせる事で、より有効に機能すると言えるだろう。
最後に、メディアごとの特徴をまとめた。
種類 | マスメディア | ソーシャルメディア/ ブログや掲示板 | ソーシャルメディア/ FacebookやTwitter |
---|---|---|---|
情報の指向性 | プッシュ性(量>効率) | プル性 | プッシュ性(量<効率) |
情報の性質 | フロー型 | ストック型 | フロー型 |
伝達内容 | ブランドのメッセージ | 購入者のレビュー | 共感者の意図せざる推奨 |
有効範囲 | Attention(注意) Interest(関心)に有効 | Search(検索)に有効 | Search(検索)以外の層に有効 |
今まで振り返ってきた「プッシュ性」や「プル性」に、「情報の指向性」を加えた。「フロー型」は発信された時に接触しないと消えてしまう情報、「ストック型」は発信された後も蓄積され接触可能な情報となる。
こういったまとめは、当然、様々な例外もある。だが、単なるブームにのったプランニングをしないためには、各特性を正しく理解することは不可欠だと言える。
しかし、メディアの特徴を知ることは、しくみを理解することでしかない。コミュニケーションを成功させる上で最も大切なものは「共感」を作ることだ。
ソーシャルメディアは、今まで心の中にあった「共感」を、目に見えるようにし、人に伝えやすい形に変えた。では、人は何に「共感」するのか。結論めいたものへは、ここでは辿り付けそうもないが、そこにこれからのコミュケーションの鍵があることは間違いない。
いかに傍観者を共感者へ変えていくか。そのヒントは身近な生活の中にあるのかも知れない。なぜなら私たちはみんな、日々何かに「共感」しながら暮らしているのですから。
日々勉強、日々精進が必要という月並みな終わり方だが、何かのヒントになったでしょうか。是非、皆さんのご意見をお聞かせいただければうれしいです。Twitterアカウント@MasaruAndoまで。
それではおつきあいいただき、ありがとうございました。
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