10年来の取り組みであった地上デジタル放送化を果たし、新たな時代に突入した放送サービス。しかし、地デジ化以前から指摘されてきた「放送・通信の連携」については、本業を浸食するものとしてネガティブなイメージととらえる放送事業者は多い。
一方、電通総研研究主席兼メディアイノベーション研究部長の奥律哉氏は「時代の変化もあり状況は随分変わってきた」と指摘する。ソーシャルメディアの隆盛によって実現した、ユーザーに求められる放送・通信の融合について奥氏に聞いた。
先ごろ放送された映画「天空の城ラピュタ」(12月9日、日本テレビ系)において、物語終盤に主人公たちが唱える呪文をめぐってTwitterが多いに盛り上がるという現象が起こりました。この現象が示すこと、それは「放送はネットを盛り上げるためのトリガーになりえる」ということです。
ラピュタという作品自体が素晴らしいとはいえ、テレビ放送は実に13回目。パッケージ商品をお持ちの方も多いことでしょうし、シナリオや呪文を唱えるタイミングまでほとんどの視聴者がご存じのはずです。それがここまで盛り上がったのは、皆が同じタイミングで視聴できるテレビ再放送だったからこそ。視聴者それぞれがそれぞれのタイミングで視聴していたら、このような現象自体起こりえません。
YouTubeやニコニコ動画が登場した2005~06年ごろは、確かにタイムシフト系サービスの風潮が強かった。ところが現在は、その両者ですらリアルタイム系サービスが人気を集めています。ネットで人気を集めるサービスのほとんどが、リアルタイム視聴を前提としたサービスとなっているのです。
スポーツイベントがテレビで放送されると、ソーシャルメディアを通じて違う場所にいる多くの視聴者が横につながる。自宅でひとり視聴しているようで、実は多くの人と一緒に番組を楽しんでいるわけです。放送の一斉同報性とソーシャルメディアの親和性はとても高く、視聴者レベルでは「テレビをより楽しむためのツール」として定着しつつあります。
番組個々の制作者レベルでは様々な形で取り入れるようになってきました。番組内容そのものにリンクさせているケースもありますし、番組の評価を、毎分視聴率とともにTwitterやFacebook上のやりとりから分析するといったソフトも開発されています。今後ソーシャルメディアをより積極的に番組制作に活用するケースは増えてくるでしょう。
1年半ほど前、ひとつの形として「Google TV」が示されましたが、テレビの1フレームにネット情報まで載せるようになると、個人での視聴ならともかく家族で見ている場合に利用するのは難しい。すでに2スクリーン(テレビとPC・ケータイの同時利用)視聴が定着している中で、いまさら覆すのは厳しい面があろうかと思います。
それはひとつの形になりえるでしょうね。スマートフォンも含め、PC的な複雑な操作を手元の端末で行った上で、結果だけを大画面に持っていく。ユーザーの能動的な動画検索が求められるVODサービスとの相性も良く、リモコン代わりにタブレットを使うケースも増えてくるかと思います。
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