10月1日の「新BS」開始に向け、関連団体と各チャンネル事業者のPR活動がようやく本格化してきた。7月24日のアナログ放送停波以降、初の本格的な周波数有効利用案件とあって放送業界内(とりわけ衛星放送関連)の士気は高いが、いかんせん、一般視聴者への認知度はイマイチという現状。そこで今回は、改めて「新BSとは何か」について紹介していきたい。
まずは開始されるチャンネルについて。既存サービスのイメージから「BS=無料」と捉えられがちだが、今回スタートするチャンネルは一部を除きほとんどが有料である。また、有料各チャンネルは「WOWOW」、「FOX bs238」を除き「スカパー!e2」の加入が前提となる。それらチャンネルの放送内容も従来のCS放送と同一であることから、基本的には「CSの一部がBSで視聴できるようになった」と考えて差し支えない。
FOX bs238がスカパー契約外に置かれているのは、当初1年間を申込不要の完全無料放送としているため。アンテナとチューナさえあれば誰でも視聴できる体制で、内容的にもCS放送とは異なるコンテンツを用意するなど新たな視聴者層確保を狙っている。
従来からBSで有料放送事業を展開していたWOWOW、スター・チャンネルの両社はチャンネル数が3チャンネルになる。スター・チャンネルについては元々CSで複数チャンネルを運営しており、そのモデルをBSに移行させる形だ。WOWOWは総合編成の要素を「プレミアム」「シネマ」「ライブ」と3分割することで、それぞれの専門性と充実度を高めた編成が展開される。但し、単チャンネル契約は不可となる。
次に、利用される周波数跡地について。7月24日のアナログ放送停波は、地上波だけではなくBSアナログ放送(NHK BS1およびプレミアム、アナログWOWOW)も含まれていた。これらの空き帯域を開放し、それを有効活用する形で開始されるのが「新BS」というわけだ。
わずか3チャンネル分の帯域(実際にはそれ以前にNHKの衛星チャンネル統合などもある)ながら、10月に12チャンネル、さらに2012年3月に7チャンネルが追加され、かつ、ほとんどのチャンネルがハイビジョン化される。この事実から、いかにアナログからデジタルへの放送切り替えが周波数利用上有効であるかがお分かりいただけるかと思う。この説明、7月24日以前に総務省がもっと効果的にPRしておけば、放送デジタル化に対する国民の理解を一層得られたのではないかと思うが、それは余談。
なお、今回のBS参加放送局の多くが2012年3月の第二期新BS開始を持って「スカパー!e2」サービスの終了方針(124/128度のスカパー!サービスは続行)を打ち出しており、それによって空いた帯域は「e2」のみに参加する各チャンネルの高画質化などに当てられる見込み。こちらは元々デジタル放送であったことから全チャンネルフルハイビジョン化とまではいかないが、複数チャンネルにおいて画質向上が予定されている。
最後に、各チャンネルがBS進出を「大きなチャンス」と捉えている要因について。先に挙げたハイビジョン化実現も大きなポイントのひとつだが、何より大きいとされるのは視聴可能世帯数の拡大だ。
地上放送のデジタル移行に伴う地上、BS、CS3波共用受信機の普及拡大は、伸び悩んでいた多チャンネル放送普及の起爆剤として期待されたが、CS放送を受信するためのパラボラアンテナの普及が思ったほど進まず、2011年時点でe2を受信できる環境にあるのは900万世帯程度とされる。
これに対し、BS放送受信可能世帯数は約2200万世帯。NHKが1989年にアナログ放送を開始したことを考えると、単純に「年月の差」と分析できるが、e2が開始された2004年以降はBS、CS共用アンテナが市場に出回っていたことを考えると、どうやら地上デジタル放送化によって進んだのはテレビの買い替えまでであり、あえてアンテナを高性能なものに付け替えた視聴者は多くなかったようだ。
「かつてないフォローの風が吹いている。最後のチャンスという覚悟で取り組む」(スカパーJSAT執行役員専務 有料多チャンネル事業部門放送事業本部長・田中晃氏)という意気込みも、こうした潜在的視聴者数の増大を捉えてのもの。無論、視聴可能環境にあるすべての視聴者を契約に結びつけるのは容易ではないが、加入者確保に向けて有利な状況が整ったことは事実だ。スカパーJSATでは、この機会にあわせた新規加入者向けキャンペーンの一環として「アンテナ無料取り付け」も展開予定で、CS放送も含めた多チャンネルサービス全体の底上げを図る構えだ。
一部広告収入に頼るとはいえ、基本的には視聴者との直接契約で成り立つ多チャンネル放送。この大きなビジネスチャンスを活かして飛躍したいところだ。
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