アジアの“人材”“技術”“金融資本”を有機的、戦略的に掛け合わせ、イノベーション創出を促すプラットフォームとして、次世代の新産業創出を目指すことを目的にした「Asia Innovation Forum 2011(AIF 2011)」が9月20日から21日にかけて、東京国際フォーラムで開催された。会合には、主催者で元ソニー会長で、現クオンタムリープ代表取締役ファウンダー&CEOの出井伸之氏をはじめ、国内外の経済界や政府、学術関係者など多くの要人が詰めかけ、アジアにおける日本の将来の展望や、経済危機、震災復興からの再生に向けたビジョン、方策などが議論された。
初日の最初のセッションでは、「待ったなしニッポン-3.11で露呈した日本の課題」と題したパネルディスカッションが行われた。出井氏のほか、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授の楠木建氏、ボストンコンサルティンググループ・パートナー&マネージング・ディレクターの秋池玲子氏、NECの特別顧問で現コラボ・ビジネス・コンサルティング代表取締役の川村敏郎氏の4人がパネリストとして登壇し、モデレーター役のTBSテレビ報道局解説・専門記者室長の杉尾秀哉氏による進行のもと、今年のフォーラムの課題共有のための意見交換が行われた。
ディスカッションでは、3月11日の東日本大震災以降、原発事故、欧米の金融危機など、山積みとなる日本が直面する危機に対して、パネリストらの共通した認識が示された。「震災前から言われてきた課題が今回大きなこととして見えてきた」と秋山氏。楠木氏も「前からずっとある問題が震災を機会に表に出てきただけで、問題の本質はまったく変わっていない」と語った。
震災対応を遅らせている問題点については、リーダーシップの欠如と巨大組織としての政府の柔軟性と機動力の欠如を指摘する声が相次いだ。「国の役割というのは実は限定的だ。後片付けや、そのあと何をつくっていくかというのは、地方自治体も政治もそもそもやることではない。国がやるべきことではないことは徹底的に民間に任せるという線引きをするべき」と楠木氏。「政治には、例えばお金を引っ張ってくることなど民間でできないことをやるべき」と杉尾氏も述べるなど、国が行うべきは、意思決定と資金調達で、現場を担当するのは民間企業や自治体が担保すべきという意見で一致した。
また、出井氏は「新しい東北をどう構築するのか。地方の人々がどうしていくのか。20世紀の延長線上で21世紀も通用するわけがない。東京からばかり見るのではなく、もう一度日本という立場を考え、いつまでも抽象論じゃなくて何か具体的なプロジェクトファイナンスができるプロジェクトをやらなければならない」と主張。これを受け、杉尾氏も「首都圏が大ダメージを受けた時に日本が沈没しないために、地方の強化が必要。東京からの分散をどうすべきか」と続けたほか、川村氏は「ある程度の集中はやむを得ない。重要なのは突然分散させるのではなく、中央がダメージを受けた際にどうダメージを回避するかのシステム構築。バックアップ体制とかシステム工学的な発想を持って変えていかなければならない」と述べ、被災地の復興は、地域的に限定したものではなく、中央政府を含めた日本全体の国家的プロジェクトとして進めていくべきだという方向性が提示された。
一方、日本が対処すべき具体的な課題については、「すでに明確である」とする見解が多数だった。楠木氏は「日本は将来が割と分かっている国。問題を“不確実性”と“複雑性”を分けて考えなくてはならない。そういう意味では日本は不確実性が低い国で、例えば少子高齢化の問題も見えているから手が打てる。利害が対立しているから難しいだけで、国レベルでやることは決まっている」と断言。杉尾氏は「やるべきメニューは出そろっている。ただ痛みを伴う勇気が国民にも欠けていた」と語ったほか、秋池氏も「やるべきことが議論尽くされていて、今問われているのは実行力」と、課題の解決にあたる国民的な姿勢を問う意見が強調された。
続いて、日本再生を促す新たなイノベーション創出の具体的なビジョンや方向性がパネリストから打ち出された。「インフラのぜい弱性をもう一度総点検すべき。携帯電話ですら震災時には機能しなかった。安心安全のための社会インフラを考え、総力を結集してつくっていく。何が起きても大丈夫な次世代型インフラをつくればよい。社会インフラのクラウド化もカギ。すでにモノをつくることでは他の国にキャッチアップされているのだから、これが構築できればアジア諸国に先駆けてリードできるのではないか」(川村氏)、「ユニークなポジショニングを確立することが必要。ローカルで魅力的なものをつくって、グローバルにアピールする“グローカル”を目指すべき。他の国の真似ではなく、日本は世界の中で1つの魅力的な国になり、それを売り物にしてグローバル化すればよい」(出井氏)「日本の強みはローカルに多くある。天然資源で勝負するのがグローバルでいちばん強いと思う。ローカルな基準で日本では当たり前のようにやっていることをグローバルに持っていくと非常に価値があることがある」(楠木氏)、「中長期ビジョンを考えると、ソフトパワー(サービス産業)。技術の強さと、サービスの強さの根幹は共通していると思う。質の高いサービスを出していくチャレンジ精神が求められていて、日本人のきめ細やかさなどは、日本は天災の多い国で自然と寄り添っていきて生きてきたからではないか。それを日本人の持つ知財として広めていくべき」など、各パネリストからの考えや提案が明かされた。
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