日本の現状を憂える人は多いだろう。そして、3.11以降はそうした気持ちに拍車がかかっているのではないか。元ソニーのCEOで現在はクオンタムリープの代表取締役ファウンダー&CEOである出井伸之氏もその1人だ。
しかし、もちろん彼はただ黙って悲観しているだけではない。同社の主催で9月20日、21日に「アジア・イノベーション・フォーラム(AIF)2011 岐路に立つ日本―今こそ次世代のための選択を―」が東京で開催されるが、アジアひいては日本の成長のために何をするべきかを考える場を提供する。この開催を前に、出井氏がどのようなことを想定し、具体的な策として何を考えているか、思いのかぎりを聞いた。
--2006年にクオンタムリープを設立されて5年経ちましたが、振り返られていかがですか。
我々の世代というのは、日本の成長期にまともに育ってきた人なんだよね。よく言えば、よく働いて日本の繁栄をもたらした年代。悪く言えば、そういう箱の中で温存されてきたという人たちだよね。特に成功した企業っていうのは、その時期誰でも成功する確率がすごく高いところにいたわけで。だって、利益の出る売り場があれば利益が出て当たり前。利益が出てる人と出てない人の営業部長の差はなんだって言ったら、担当したとこがいいか悪いかじゃない。僕らは担当した部門がよかったんだよ。戦後の成長期っていうのは、わかりやすく言えばそういうこと。それで「昔はよかった」なんて言ってちゃいけない。
それで、ソニーを離れてからまったく違う面で世の中を見てみて、ソニーとかトヨタとかそういう大企業の名前は名乗れないけど、個人でまともに社会と接点を持ってみたらどうなのかっていうのがこの会社の基本的な理念。だから社会貢献とか、そういう言葉はあまり使いたくないけど、CSRってあるじゃない? あれは“Corporate Social Responsibility”という意味なんだけど、僕は“PSR”じゃないかと思ってる。つまり“Personal Social Responsibility”。僕たちの世代が持ってた日本の成功経験だとか、そういうのを日本では次の世代に移す。
それが例えば中国に行けば、“グローバリゼーション”とは何か。アメリカの場合だと、ソニーはアメリカの企業を買ったけど、どんな経験だったんですかと。そういうのをみんなものすごく聞きたいわけなんだよね。大企業が成長していく過程でどんな経験をしましたかとかね。そういうのって自分では当たり前だと思っているけど、そういうのを語り部として人に伝えてくっていうのがこの会社。
どんなジェネレーションでも、大企業に働いていないと自分が裸になっちゃうような感じがあるじゃないですか。でも、最近随分変わってきていると思うんだよね。若い人が1つの会社で一生働こうと思わないし、働く必要もないよね。でも、法律は従業員の雇用を守るとかそういうふうになっていて、国は考え方が遅れている。つまり、今の若い人のほうがよっぽど考え方が進んでいるんだけど、そういう人たちと接点が持てる場を作ったり、世代や国籍を超えて話をするのは、やっぱりインプットされるものがなんか全然違うと感じますね。
--今、出井さんがおっしゃったPSRというのを発揮しなければ動かない世の中になってしまいましたよね。3.11の震災前からそういう雰囲気はなんとなく出ている感じはありましたが、それが今回の震災で一気にパーソナルな部分でつながっていったということでしょうか。
日本でも震災のはるか前からNPO(非営利団体)って確実に増えているよね。それはもう世の中が変わってきているということなんだけど、そういうのを日本のマスメディアは見過ごしているんだよ。日本でNPOが数字的にどの程度進んでいるかは詳しくはわからないけど、やっぱり自分の空き時間をそういうのに使おうっていう動きがすごく多いよね。例えばGoogleは2割は他のことに使えと会社として言ってんだよね。日本でも実際にそれぐらいのことをやってる企業はあるんだけど、みんな密かにやっている。
--9月20日、21日の「アジア・イノベーション・フォーラム(AIF)2011」では、“人材”“技術”“金融資本”の3つを柱に掲げられて、それらを有機的に重ねて次世代の新産業創出を目指しますというのが目的ですが、プログラムのタイトルの最初には“3.11 を踏まえ日本、アジアの今後は?”とあるのは、どういった趣旨なのでしょうか。
今まで4回やっているんですが、テーマが全部違うんですよ。例えば去年は、“地球の限界”“アジアの成長”“日本の責任”をテーマにやって。それらは明らかに当時の世相を反映したものだったんですが、今回、それが本当に起こってしまった。だから今回のテーマは“岐路に立つ日本”。英語の題名読んでもらうと“崖っぷちに立つ日本”。
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