logo

水ビジネスへの期待と課題--全国の水道事業社の取り組み

齋藤博康 (日本水道協会特別会員)2011年04月25日 10時00分
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

1.政策論

 昨今、水ビジネスという言葉が多用され、水道事業には官民連携(PPP)の推進とその優れた技術を駆使し、内外でもっと稼ぎ、雇用を増やし、利益を上げ、わが国経済の発展の先頭に立てといった期待が掛けられています。

 世界の水市場規模は2025年には素材、部品供給、建設の分野で48.5兆円、管理・運営ビジネスの分野で38兆円、合計86.5兆円に達するという試算があります。これまで、地道な仕事をしてきた大方の水道事業はこのような過大な期待の中で今後どう事業展開を図るべきか戸惑っているように見えます。

 水道事業経営は元来、人の生活や公衆衛生の見地から地域密着の必需、不断、非代替の公共サービスと認識され、民間企業にとって魅力の乏しい分野であり、そのため、経営責任も(原則)市町村が負って来ました。水はここへきて原子力、鉄道、リサイクルなどと共に、国の経済成長をもたらす戦略産業分野として期待されています(2010年6月3日「産業構造ビジョン2010」、6月18日閣議決定)。

 わが国の水道事業者はこれまでODAにおいて、途上国などに浄水場や管路施設の建設、維持管理、要員訓練などの援助・支援、技術協力や専門家派遣などを行い、多くの実績を挙げてきました。それがここへきて商売重視へとシフトするよう求められています。方向としては理解できますが、言う程に容易でなく、検討、準備、実績の積み重ねが必要なことを関係者はどれ程認識しているでしょうか。また、PPP推進には自由度の高い(それだけ責任が重い)連携方式がより選択されることも承知しておくべきでしょう。

 公益事業としての水道事業経営は水質、料金などを含む顧客利益を保護するために様々な法的規制があり、併せて巨額の初期投資を伴い資本回転率の遅い、いわば利の薄い事業です。漏水防止技術をはじめ、優れたわが技術や素材、施工、運営管理などをもってすれば海外で歓迎される筈だし、品質の良いものは必ず売れる筈という思い込みがあります。

 それは質より量を優先せざるを得ない途上国などで必ずしも通用するとは限らないのです。また、水道事業は富裕層だけを相手にするものではなく、顧客の大半は貧困層を含む多数の家庭用使用者(BOP)であり、これら一般顧客を相手に毎月一定の料金徴収率を維持するには地道な企業努力と公共部門のバックアップなどが必要です。

 さらに、途上国の多くは水政策の基本が確立せず、独立採算制、完全費用回収原則なども守られず、さらに、水道料金政策と社会福祉政策に混同が見られます。つまり、スラムを抱え貧困層を含む家事用使用者に対して、内部補助の計算が成立しない方法で原価を下回る料金により給水し、収入不足を水道事業者に負担させたり、補助金(税金)を以ってこれに充てることが多いのです。

 これらを国が政策として解決しなくては水道事業の健全経営は困難で、国による赤字解消、欠損補てんのための補助金支出が続く限り、自立した健全な経営は望めません。このような状況下の水市場に乗り込むには、相応な検討と覚悟が必要と思われます。

2.動き出した水道事業の取り組み

 2010年7月に国交省、厚労省、経産省によって海外水インフラPPP協議会が設立され、12月に仙台で、1月にさいたま市と名古屋市で情報交換や全国の水道事業者と関連企業のマッチングが行われました。まず、じっくりと現地情報などの収集を行い、ニーズを探ることが重要という姿勢です。

 それと並行し各都市が関連会社などを立ち上げ、共同して海外展開を図る動きが活発です。次に水道事業が関与する主要なものを紹介します。

 (1)東京都水道局:東京水道サービス(51%都出資)と共にヴェトナム、カンボジア、マレーシアなど10か国に3年間ミッション団を派遣し、海外情報の収集とそのデータベース化を図る。マレーシアでは同国の第10次プランに都の政策提案を反映させるべく働きかけるなどしています。

 (2)横浜市:国が目指す「日本版Water Hub」としての国際戦略拠点を横浜招致につなげるため、横浜水ビジネス協議会を設置。2010年7月に横浜ウオーター(100%水道局出資)を設立し、浄水場の運営管理や研修事業のほか、JICAからの調査案件やコンサル業務を行うとしています。

 (3)大阪市:ホーチミン市(ヴェトナム)の「省水型・環境調和型水循環プロジェクト」を実施。「大阪市 水・環境技術海外展開推進機構」を関西経済連合会、大阪商工会議所などの関係機関と設立する予定。フエ水道公社、ホーチミン水道公社、水道訓練センターの支援。上下水道や環境技術を海外の水・環境問題解決と大阪・関西経済の発展に寄与するとしています。

 (4)埼玉県:埼玉県水ビジネス海外展開研究会が報告書を纏めていますが、対象地域として中国、アセアン諸国、インドなどに上水の原水供給、工水・中水供給、下水処理を目指しています。

 (5)北九州市:北九州国際協力協会とサウジの下水処理施設の運営管理。プノンペン水道(カンボジア)の人材育成プロジェクト。スラバヤ市(インドネシア)下水道整備に向けた水環境改善指導。大連(中国)の水道技術の交流。その他、2010年8月に海外水ビジネス推進協議会を設立、2010年3月に浜銀総合研究所との協力事業としてカンボジアにおける浄水場建設設計事業などに取り組んでいます。

 (6)名古屋市:2011年3月に豊田通商がJICAから受注したスリランカの上水調査プロジェクトに協力するとしています。

齋藤博康

日本水道協会特別会員

東京都水道局、(社)日本水道協会、(株)日水コン海外本部。規制緩和、水道事業の官民連携推進に論陣。主な著訳書「水道事業の民営化―公民連携」、「英国上下水道物語」、「水の料金(OECD)」

-PR-企画特集