Windows Phone 7はノキアの救世主か--MSとの提携に見る山根康宏の視点

ユーザーが「使いやすかったNokiaを捨てる」--その背景にあるもの

 2月11日、NokiaはMicrosoftと提携し、ハイエンドスマートフォンプラットフォームとしてWindows Phone 7を採用すると発表した。これまでのSymbian OSを中心としたプラットフォーム展開からの大きな方向転換であり、また現在開発中のMeeGoプラットフォームにも大きな影響を与えることになる。両社の提携は、競争を増すハイエンドスマートフォン市場でどのような結果を生むだろうか。

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 iPhoneの登場以降、消費者の携帯電話の使い方は音声通話のできる「電話機」から、コンテンツやソーシャルネットワークサービスを利用する「メディア端末」へと大きく変化している。フィーチャーフォンが普及し、この分野ではすでに先行している日本・韓国を除けば、他の諸外国では一般的な携帯電話利用者の多くが、つい最近まで音声通話やSMS(ショートメッセージ)を利用の主体としていたのだ。

 だが、今では先進国を中心に多くの携帯電話ユーザーがスマートフォンへの乗換えを始めており、情報サービスや地図検索を利用したり、音楽やビデオ視聴を楽しんだりするようになっている。

 もちろんNokiaもスマートフォンは販売しており、数字の上では同社の採用する「Symbian S60」はiPhoneの「iOS」よりもシェアは高い。だが実際の利用実態を見てみれば、NokiaのスマートフォンをiPhoneやAndroid端末のように自在に使っている利用者の数はあまり多くはない。

 一方、iPhoneやAndroidであれば、大きな画面上を指先でタッチするだけで簡単にリッチな体験を得ることができる。意識することなく自由にこのような体験を提供できるという点で、Nokiaは遅れをとっているのが実情だろう。

 そして外部要因の影響も大きい。それは全世界的な「Facebook」の流行だ。今では5億人以上ものFacebookユーザーが日常的にメッセージの交換や写真の共有、情報発信などをしている。iPhoneやAndroidスマートフォンであれば、IT知識のあまりない一般的な消費者でも簡単にFacebookを活用できるため、“使いやすかったNokiaを捨てて”他のスマートフォンへ移行する消費者の数も増えているのだ。

 Nokiaも次世代スマートフォンの開発には着手しており、ちょうど1年前となる2010年2月にIntelと提携を発表し、MeeGoプラットフォームを搭載する製品の開発を行っている。だが、その後1年が過ぎてもNokiaからはMeeGo搭載の製品が出てくることはなかった。そして、ハイエンドスマートフォン製品が出てこなかったために、既存のSymbianプラットフォームの進化もiOSやAndroidより遅れてしまっている。消費者の携帯電話の使い方が急激に進化しているのに対し、製品の進化がこの1年間追いついていないのが今のNokiaの姿なのだ。

信頼性やブランド力が低下していたMicrosoft

 一方、MicrosoftのWindows Phone 7は斬新的なユーザーインターフェース(UI)を採用し、SNSやゲームなどのエンターテインメント利用だけではなく、オフィスアプリケーションも搭載するなど、これから期待できる新しいプラットフォームだ。だが、2010年冬の発売以降、販売台数は伸び悩みが続いている。これは製品そのものの出来不出来以前に、消費者からの信頼性やブランド力の低下が大きなマイナス要因として働いている結果だろう。

 それに加えて“販路”、すなわち消費者に直接商品を届ける末端部分でも苦戦を強いられているのが敗因だ。携帯電話事業者の店舗や家電店では多くのメーカーの製品が販売されており、実店舗の販売スペースには限りがあるのだ。Windows Phone 7を売るためには、まずはiPhoneやAndroidなどを押しのけて製品を置いてもらうところから始めなくてはならないのである。

 NokiaがWindows Phone 7を採用したことにより、Nokiaは出遅れていたハイエンドスマートフォン市場で一気に挽回を図れるだろう。またMicrosoftにとっては、Nokiaという高いブランドを勢力に引き込むことにより、販売店の店頭で製品アピールする場を拡大できる。すなわち両社にとってはプラスの要因が相互に働くと期待できるわけだ。その一方で、これまで長年にわたってNokiaが築き上げてきた「Nokiaらしい製品」が今後出てこなくなってしまうのではないだろうか、という懸念の声も聞かれる。

 だが、Nokiaのスマートフォン主力OSであるSymbianも、元は外部である英PSIONが開発したOSを採用したものだ。Nokiaが独自にUIをカスタマイズし、従来のNokia製品とのUI思想を共通化したことにより、Nokiaらしさを保ったスマートフォンが開発されてきた。

 だがWindows Phone 7ではOSのUIは各社共通となり、Nokiaが独自に手を加えることはできず、MicrosoftのUI思想に則った製品となってしまうのである。そうなるとNokiaと他社のスマートフォンが、今後差別化できる要素も失われてしまうという危惧もある。

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