株式市場でMBOの発表が相次いでいる。MBOとはManagement Buyoutの略称で、経営陣による自社株式の買収を指す。一度株式公開した企業が上場廃止となるのはかつて、経営破たんや不祥事などによって上場基準を満たせなくなるパターンがほとんどだった。しかしライブドアなどが行った敵対的買収の脅威もあって経営陣が自ら選択して上場を廃止するケースが多くみられるようになってきた。
2月3日の取引終了後、CD、DVDレンタル店「TSUTAYA」をフランチャイズ展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)がMBOによる非上場化を発表した。一般的に高い知名度を誇る企業であるほか、「Tポイント」での他業種との連携やネットレンタル事業といった成長期待の大きなビジネスも注目されていただけに、株式市場に与えたインパクトが大きかった。
MBOは敵対的買収騒動を経た2005年にブームとやゆされるほど増加し、その後は一定の水準をキープして「経営の1つの手段」として認知されてきた。親子上場への批判が強まる中でグループ再編と銘打った株式交換などによる完全子会社化も増加した。
しかし、2011年に入って再び株式非公開化が急増している。2011年に上場廃止見込みとなる発表を行った企業は、2月7日公表分までで12社。このうち、上場廃止基準に抵触して退場となった銘柄は1社のみ。残り11社はいわば自らの意思で上場廃止に踏み切る。うち7社がMBOという比率の高さだ。
上場企業が自ら上場廃止に踏み切る背景には、上場維持コスト負担と意思決定スピードの向上が大きいとされている。上場企業であることは信用面などで大きなステータスになるが、取引所などに支払う上場管理費の負担は少なくなく、加えて投資家に向けたIR(投資家向け広報)活動費用も増加傾向にあるとされている。
景気低迷、企業業績の悪化、また株式市場全体の低迷も相俟って各企業の株価は低迷しており、上場企業のIR姿勢に対する投資家からのプレッシャーも強まっていた。経済環境が不透明な中で再成長に向けた大胆なリストラ、投資も株主の目が気にならない非上場企業のほうが行いやすい。もちろん、上場廃止に伴って上場時などに売り出した株式を買い取って回収するのだから株価が低いほうがやりやすいというのもあるだろう。足元の決算シーズンで急増しているMBOにはこういった背景があるようだ。
CCCのMBO発表前である1月31日取引終了後には基幹業務パッケージソフト開発のワークスアプリケーションズがMBOの実施を発表。ワークスアプリケーションズはかつてジャスダック市場の中核銘柄だったが、民間企業業績の悪化を背景としたIT投資抑制のあおりを受けて業績成長力が鈍化。存在感を低下させていた。
株価は過去、20万円近辺まで上昇したが、MBO発表前には3万円台まで低迷していた。MBO価格は1株5万5000円で発表直前の1月31日終値を37.5%上回る水準だが、数年前に比べれば驚くほど低い水準だ。過去には価格面で投資家と企業側が争うケースもあった。2010年10月にMBOを発表した出版社の幻冬舎は、MBO発表後に投資ファンドによる買い増しが明らかになった。MBOの成立に向け、買い付け価格を引き上げるなど対応策に追われている。
資金需要などによって「株式市場は出たり入ったりするもの」と言われる。かつてMBOで株式市場を去った飲料大手のポッカが今春にも再上場するとの観測もある。ただ一方で、投資家の投資の機会を奪ってしまう上場廃止を自ら選ぶことに対して「絶対的な悪」と語気を荒げる市場関係者もいる。安易なMBOの多発は幻冬舎のような投資ファンドの介入やMBO後の訴訟など、トラブルを招く可能性もある。
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