アップルの開発者向けカンファレンスWorld Wide Developers Conference(WWDC)が米国サンフランシスコで7日(現地時間)から5日間の予定で始まった。このカンファレンスは毎年の恒例行事で世界中から開発者が集まり、さまざまなセッションに参加する。筆者もiPhone発売以降毎年参加しており、今年で3回目になる。iPhoneビジネスを行っている当事者として、スティーブ・ジョブスの基調講演を生で見て感じたことを記したい。
約2時間の基調講演が終わった時の感想は「圧倒的だ」の一言だった。息をのむと同時に高揚感と違和感が同時に襲うような得も知れぬ感覚であった。
今回の基調講演では最初にiPadの話をした後にiPhoneの話をし、それが最後まで続いた。つまりMacの話題が出なかったのだ。iPhoneとiPadの話しに終止したのである。
iPhone登場以降、薄々感じていたことでもある。AppleはMacをどうしたいのか?つまり従来型のPCという既成製品の位置付けだ。
そもそもコンピュータは専門家のためのツールだった。インターネット登場以降、広くPCと呼ばれるようになり、インターネット接続端末として一般の人々が使う製品として普及して行った。
AppleはiPhoneとiPadによってPCからインターネット・パーソナル・デバイスへの質的転換を図ろうとしている。従来のPCの操作方法、実現できる機能の再構築、物理的な外観、ソフトウェアの流通、価格など全ての概念を再構築しようとしているのではないか。
PCは一部の専門家が仕事で使うツールとして今後も生き残り続けるだろう。しかし、一般的なコンシューマーユーザーが利用する操作方法や利用場所、必要な機能は既存のパソコンとは別のものだとAppleが再定義したのがiPhoneでありiPadなのだ。
「iPhone 4」は、その「真打ち」だと感じた。それが今回の高揚感につながっている。コンピュータがやっと普通の人が直感的に使える日常道具になったのではないだろうか。
iPhone 4はエンドユーザーがアマチュアでもプロフェッショナルな体験が可能になった。今回発表された「iMovie」が典型的だ。簡単に撮影できて編集し、HDクオリティのビデオを直感的に作ることができる。「iBooks」も電子書籍リーダとして更に進化しPDFの表示やコピー&ペースト、iPhone/iPad間での購入書籍の同期化など「かゆい」ところに手が届くようになっている。
デベロッパーにとっては逆の見方もできる。今までのiPhoneはAppStoreの参入の容易さからアマチュアレベルのアプリも多々見られたのも事実だ。しかし今後は状況は変わるだろう。iPadもiPhone 4もディスプレイは高精細、CPUはアップル製の高性能A4チップ。「iOS4」はAPIも多数追加され機能を充実させている。つまり、これらに沿ったアプリのクオリティレベルは相当高い。
エンドユーザーには容易にプロフェッショナルな体験をもたらし、デベロッパーにはプロフェッショナルなクリエイティブが求められる。これがiPhone 4なのである。
AppStoreによってアプリの流通市場はグローバル市場のフラット化をもたらした。デベロッパーは世界へ挑戦する敷居が低くなり、エンドユーザーは圧倒的なタイトル数の中から自分に合った入ったアプリを安価に手に入れられるようになった。
iPhone 4は電子書籍市場であるiBooksが加わりiPadとあわせてAppStoreと同じような変革がおこるだろう。iBooksの登場は旧来の出版業界からみれば黒船であることは間違いない。
画面の高精細化やビデオカメラ機能、編集機能の増強はエンドユーザーのライフスタイルを変えて行く可能性は高い。
今回の基調講演で語られたものは既存概念からの脱却であり、新たな革新と創造性の萌芽である。難しいパソコンというお堅いイメージから、楽しく使えて何かを生み出せる、体験できるデバイスが登場したと言える。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス