KDDIは、携帯端末向けマルチメディア放送サービスへの参入を目指し、新会社「メディアフロー放送サービス企画」を5月26日に設立した。これを受けて6月3日に都内で会見を開催。事業化に向けた取り組みや、同社がクアルコムとともに推進する放送方式「MediaFLO」の動向について説明した。
マルチメディア放送とは、現在地上波アナログテレビ放送で使用しているVHF帯ハイバンドの一部を割り当てて2011年7月以降に開始される予定の放送サービス。サービス開始に向け、現在受託放送事業者の認定申請が行われている最中だが、総務省が利用申請できる帯域幅を1事業者分の14.5MHzとしたことで、現在MediaFLO方式を推すKDDI、クアルコムの「メディアフロージャパン企画」と、ISDB-Tmm方式を推すNTTドコモ陣営の「マルチメディア放送」の実質2社によるせめぎあいが活発化している。
放送技術を利用することで、コンテンツのプッシュ配信が可能になるだけでなく、帯域を気にせずリッチコンテンツを同報配信できるマルチメディア放送。ビジネスとして成功するためには、なによりも「受信端末が普及することだ」とメディアフロージャパン企画代表取締役社長の増田和彦氏は語る。
メディアフロージャパン企画では、すでに2009年から沖縄ユビキタス特区にて、MediaFLOの実証実験を開始。1チップでワンセグも受信できるチューナーを搭載した携帯電話型の受信機をはじめ、商用に近いレベルでのフィールドテストを実施していることをアピールする。
また、全米1位、2位の携帯電話事業者であるVerizon WirelessとAT&TがMediaFLOを商用化しており、ブラジルをはじめとした南米各国、英国や台湾などでも導入を進めていることから「グローバルなエコシステムが形成されており、多用な端末普及やインフラコスト低減の期待が大きい」(増田氏)と主張する。さらに標準化団体「FLO Forum」で下位レイヤから上位レイヤまでの標準化を進めており、端末やサービスの開発が可能な状態であることも強みだとした。
加えて増田氏は、日本技術にこだわって“ガラパゴス化”を招くのではなく、グローバルでオープンなシステムを構築すべきと主張。総務省による事業者選定で「透明で技術中立的な審査が行われることに期待する」と語った。
メディアフロージャパン企画取締役でクアルコムジャパン代表取締役会長兼社長の山田純氏も、米国での商用利用の詳細をはじめとして、グローバルなMediaFLOの展開について紹介した。
また、AppleのiPadについて「MediaFLOに最適なデバイスがついに現れた」と紹介。iPadと試作端末「PocketFLO」を使ったデモを披露した。
PocketFLOは、リアルタイミングのストリーミング動画やプッシュ配信され、本体に蓄積した動画をWi-Fiで配信できる端末。デモでは、iPadアプリケーションでストリーミング動画を閲覧、録画したり、PocketFLO内に蓄積された動画を検索して再生したりする様子が紹介された。
MediaFLOでは、ストリーミング動画やプッシュ配信だけでなく、データ配信も可能となる。そのため電子書籍やゲームなども配信可能だ。デモでは、動画の視聴に加えて、同じアプリケーションから電子書籍を閲覧する様子も紹介された。「(通信では)コンテンツの量が多くなりアクセスが増えるほど負荷は高まる。MediaFLOはほとんど無尽蔵のキャパシティを持っているので、容量を気にせずに何10万、何100万人に配信できる。iPadなどの端末によって、エンドユーザーにも実感してもらえるのではないか」(山田氏)
放送事業者は、プラットフォーマーとなる受託放送事業者と、コンテンツを提供する委託放送事業者の2つに別れる。今回設立されたメディアフロー放送サービス企画は、後者として自社コンテンツを作成したり、多チャンネル放送事業者やコンテンツプロバイダーが委託放送事業者として参入しやすいように課金や顧客管理などのインフラを整えたりすることを目的とした準備会社。
代表取締役社長にはKDDIグループ戦略部部長の神山隆氏が就任。資本金は5000万円で、出資比率はKDDIが82%、テレビ朝日が10%、スペースシャワーネットワーク、ADK、電通、博報堂が計8%となる。「制度整備はこれからという話があったが、(受託放送事業者としての)ハードだけでなく(委託事業者として)ソフトもそろえていくため、このタイミングで設立した」(神山氏)
マルチメディア放送の開始に向けた今後の展開は、6月7日に受託放送事業者の開設計画認定申請が締め切られ、7月中旬にも事業者が選ばれる予定。その後のスケジュールは未定だが、委託事業者の選定については「早くて2010年内、遅くて2010年度末ではないか」(増田氏)とした。
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