アナログテレビ放送が停波した跡地の一部に携帯向けマルチメディア放送(以下M放送)が割り当てられることは決まっていましたが、2009年末に内藤総務副大臣の一言で状況が一変しました。M放送はV-HIGH帯とV-LOW帯に分かれており(一方が全国向け放送、もう一方がブロック向け放送)、周波数帯も異なることからM放送でありながら別ものと考えられています。
内藤副大臣の発言は、V-HIGH帯については携帯電話事業者を中心とした申請予定者であるため、端末、インフラ等、ある程度普及が見込まれることから比較的問題が少ないが、V-LOW帯についてはアナログラジオ放送事業者のサイマルが中心であり、ビジネスとしての新規性、多様性に欠くことを懸念し、一度、振り出しに戻すことを示唆したものです。そこで総務省で立ち上がったのが「ラジオと地域情報メディアの今後に関する研究会」でした。
研究会は2月に招集され、既に第8回まで進んでいます。研究会の構成員は、学識経験者だけではなく、比較的ラジオに近い、ラジオに思い入れがある構成員が名前を連ねています。また毎回内藤副大臣が出席していることも会の重みをあらわしているのではないでしょうか。目的はラジオの未来についての議論です。しかしその内容はV-LOW帯をどうするのかを提言するものになっています。
既にほぼ報告書骨子は出来上がっており、研究会は最終段階に入っています。報告書の骨子は、(1)ラジオはどうあるべきか=ラジオ論、(2)ラジオ論とV-LOW帯の関係、(3)V-LOW帯のシミュレーション=V-LOW論の3部構成になっていて、さらに申し送り事項、コラムが追加される予定です。
確認事項として、「ラジオは今後も残すべき」、「V-LOW帯の放送区域はブロックだけではなく県域+ブロックのハイブリッドにすべき(選択自由)」、「V-LOW帯でのアナログラジオのサイマルを認めるべき」、「ラジオ用セグメントを優先すべき」、「ハード会社は一社」、「カバー率は全国で達成すればよい」、「費用配分はシェアすべき」等、既存ラジオ事業者を中心とした考え方になっています。要はテレビ放送のデジタル化と同じく、いずれラジオ放送もV-LOW帯を軸にデジタル移行しましょう、といった方向性が示されたといえるでしょう。
また、第7回の研究会では、インフラ事業に係る費用の概算も参考として発表になりました。全国98%カバーするために1200億円が必要とのことです。この莫大な費用を既存ラジオ事業者や、新規参入事業者がどう調達するのでしょうか。テレビのデジタル化には国費が投じられました。ラジオのデジタル化はどうなるのでしょうか。
パブリックコメントの募集も近々出るでしょう。V-LOW帯は2013年9月1日(防災の日)を目途に走り始めているようです。V-HIGH帯については、既に申請が始まっています。ようやく道筋がみえてきたV-LOW帯とラジオのデジタル化ですが、これからもまだまだ課題が山積しているようです。
◇ライタプロフィール
戸口功一(とぐち こういち)
1992年(株)メディア開発綜研の前身、菊地事務所(メディア開発・綜研)にてスタッフとして参加。2000年法人化で主任研究員、2005年より現職。1992年電通総研「情報メディア白書」の編集に参加。現在も執筆編集に携わる。その他、インプレス「ケータイ白書」、「ネット広告白書」、新映像産業推進センター(現デジタルコンテンツ協会)「新映像産業白書」、「マルチメディア白書」、「デジタルコンテンツ白書」の執筆および経済産業省、総務省の報告書等を多数手掛ける。
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