電子書籍の規格統一へ政府が意欲、出版業界の代表らを集めて懇談会を開催 - (page 2)

永井美智子(編集部)2010年03月19日 19時58分

デジタルだからこそできることを

 米国Sony Electronics上級副社長の野口不二夫氏は、米国で実際に電子書籍事業を担当している立場から、「Kindleが喜ばれている理由の1つは、お年寄りの人が使う際に簡単に文字が大きくなるから。視覚に障害のある人でも音声読み上げで本が読めるなど、デジタル化することで生まれるメリットがたくさんある」と紹介。さらに「映画の歴史は100年程度、音楽も数百年程度だが、テキストは人類創世以来の長い歴史を持つ文化遺産だ。これをきちんと後世に伝えなければ、我々は後世に恨まれる」として、電子書籍についての深い議論を求めた。

 野口氏はまた、デジタル化により著作権は守りやすくなる面もあると話す。「米国で公共図書館と一緒に書籍のデジタル化をしているが、そこでは紙とデジタルデータをそれぞれ貸し出しており、どちらも2冊ずつまでしか1度に借りられないようにしている。デジタルデータは貸し出しから1週間経つと読めなくなり、次の人が借りられる仕組みだ」(野口氏)と実例を挙げ、デジタルにより厳密にルールの管理ができるとした。

 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科委員長 兼 環境情報学部教授の徳田英幸氏も、デジタル化により生まれる新たな可能性に注目する。「著者へのコメントやフィードバックをリアルタイムにできたり、新たな形の広告を埋め込んだり、マーケティングに活用したりといったように、新しい需要を起こせる創発型の出版物の可能性を議論したい」(徳田氏)

 シャープ代表取締役副社長の安達俊雄氏は、「日本のものづくりのパラダイムシフトが起きていると感じている。過去、日本のものづくりはすり合わせ型と言われてきたが、今までの部品レベルのすり合わせだけでは対応できない。これからはハードとコンテンツ、ソフトといった、知的なすり合わせが必要になる」とし、端末メーカーと出版界との協業が今後の産業発展には必要との考えを示した。

 KDDI取締役執行役員常務の高橋誠氏は、auで着うたなどのモバイルコンテンツ市場を作り上げてきた経験を踏まえ、「ネットというと『コンテンツがすべて無料になる』と恐れを抱く人もいるだろうが、我々は作品の価値をきちんとユーザーに届け、対価を得て著作者に還元することを大切にしてきた。これがうまくいったのがモバイルコンテンツ業界であり、世界に誇れるモデルだと考えている。モバイルコンテンツをきっかけに書籍やCDが売れることもよくある。デジタルとリアルが共存して、全体としてプラスになるようなビジネスモデルを作れればいい」とした。

 懇談会は今後、技術に関するワーキングチームと、出版物の利活用のあり方に関するワーキングチームの2班に分かれて議論が進められる。それぞれ月に2回ほど会合を開き、最終的に懇談会での議論を経て6月をめどにとりまとめをする計画だ。

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