さて、App Storeも含めた電子書籍市場はこれからどうなるのだろうか。
日本では青空文庫や産経新聞アプリの登場で、市場の動き方、取り組み方が変わり始めた。電通がMAGASTOREで数々の雑誌をiPhone/iPod touch向けに配信をスタートさせている。また産経新聞は、これまで非表示が多かった広告枠をiPhone向けに販売し始め、新聞の中で動く広告が見られるようになった。
また既存の書籍やムックの電子化の動きにも工夫が見られる。
「例えばお茶漬けレシピアプリ『お茶漬け帖』は、基幹の書籍『極うま!!お茶づけ帖 – ほっとする美味しさ180』(ベストセラーズ出版)をアプリ化しています。書籍譲りのキレイな写真に加えて、お気に入りマークをつけたり、食べたお茶漬けをTwitterにつぶやく機能が搭載され、新しい書籍の形を実現したりしています。また子どもに読み聞かせる絵本アプリなども登場し、本当に多様化が進んでいます」(YaCC氏)。
電子書籍は他のアプリに比べて、作りが単純であるため量産が可能だ。ビューワーにコンテンツを流し込む方式で、コンテンツをフローに入れれば簡単に作ることができる。あとは既存のコンテンツホルダーとの交渉、企画次第だ。もちろん1つずつのアプリが数が出るわけではないが、短期間にアプリを揃えられる点で、ビューワーの開発をまかなう可能性も強い。
そんなiPhoneアプリの電子書籍市場は、これから大きく変わる可能性がある。
電子書籍デバイスで先行し、iPhoneアプリ版も揃えているアマゾンのKindleは、これまで著者が売上げの35%の印税を得るプランに加えて、著者と出版元が販売価格の70%を受け取ることができるプランを発表した。この数字はアップルのApp Storeで販売されるアプリの比率と同じになった点で非常に大きな話題性がある。アマゾンジャパンにも早速著者や出版元からの問い合わせが入るなど、動きが活発化することは必至だ。
Kindleの70%プランは、いくつかの注目ポイントがある。
1つは、価格や仕様など、電子書籍が満たすべき条件を設定している点。同じタイトルで紙で出版されている本よりも安い価格であること、音声読み上げなどKindleの機能を満たすことなどだ。つまり電子書籍の機能性を確定し、なるべく安い価格で流通するように促しているのである。
2つ目は、70%の内訳が著者と出版元になっている点だ。さらに言えば、著者とごく少数のスタッフだけで作品を作り上げれば、70%が著者(とそのスタッフ)に入ることになり、これまで以上に印税が多く入ることになる。出版元を通さず、著者のみ、あるいはフリーランスの編集者とのコンビでの出版がより増えていく可能性を示唆するものだ。
この2つの流れは、App Store登場当初の2008年後半を思わせる。iPhoneのSDKに沿って開発された個人のアプリが、非常に多くの売上げと収益を上げるシンデレラストーリーを作り上げた初期のApp Storeのように、アマゾンのKindle Storeも、本というメディアのApp Store化をもたらすことが大いに考えられる。
そんな状況を、iTunes Store、App Storeを有するアップルが見逃すだろうか?iPhoneや新しいデバイスで、今までのApp Storeとは違う形で本が読める可能性は十分にある。そのとき、これまでのアプリでの電子書籍出版のスタイルから移行が進むのか、共存するのか、動向を見守りたい。
慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。嘉悦大学、ビジネスブレイクスルー大学でも教鞭をとる。テクノロジーとライフスタイルの関係を探求。モバイル、ソーシャルラーニング、サステイナビリティ、ノマドがテーマ。スマートフォンビジネス専門メディアAppetizer Japan編集長。
TBSのラジオ番組「J-sky」でCLAMPとともにパーソナリティーを務める傍ら、広告代理店でイベントディレクターとして「DHC」、「TOYOTA」「コカ・コーラ」など、数々のイベントを手がけ、現在はiPhone事業に従事。iPhoneのスペシャリストで、アプリチェック数は8万を越える。
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