ほとんどの起業家にとっては、立ち上げた企業が1つでも売れればラッキーだ。そうした快挙を繰り返し、企業を2つも3つも立ち上げては売却できる人などそういない。しかし、Zimbraの創業者たちはさらにその上を行っている。1つの企業を2度も売却するのだ。
All Things DigitalのKara Swisher氏が報じたところによると、VMwareは、オープンソースの電子メールソフトウェアを手がけるZimbraを米Yahooから買収することを、近く発表する見通しだという。VMwareにいる筆者の情報筋からも、この件について確認が取れた。
Swisher氏は、Zimbraの所有企業が変わることについては正しく報じているが、不良資産が売却されるかのような論調は的外れだ。
たしかに、YahooがZimbraの活用法を見出すことができず、Red HatやCisco Systemsなど、さまざまな潜在的売却先にZimbraを売り込んでいたことは事実だ。しかし、今回の売却は、エンタープライズ市場に自社の未来はないというYahooの判断を反映したものだ。一方のZimbraは、Comcastといったインターネットサービスプロバイダーとの提携でいち早く成功を収めた後、急速にエンタープライズ市場を主戦場としつつある。
Zimbraに近い情報筋によると、世界的な不況で経済が冷え込むなか、Zimbraは利用者数を100%増やし、売り上げもおよそ100%伸ばしたという。成長分の大半は、Bechtelなど大所帯のエンタープライズ顧客からの売り上げによるものだ。
つまり、Zimbraは成長株の資産といえる。ただし、VMwareによる買収額が、Yahooが2006年の買収時に支払った3億5000万ドルを下回ることはまず間違いない。売却される資産と景気低迷前の独立企業とでは、評価額に差がつくのは当然のことだ。
それでもなお、ZimbraはVMwareにとって戦略的価値の高い資産になる可能性がある。仮想化を専門とするVMwareが、とりわけ自社のクラウド製品の差別化を図ろうとしている今のタイミングで、Zimbraに関心を抱いたとしても驚くにはあたらない。
筆者は先日、「クラウド市場でアプリケーション戦争が勃発しようとしている」という記事を米CNET.comに書いたが、VMwareはZimbraの買収によって、他のどの企業よりも進んでこの戦争を勃発させようとしている。競争力のある差別化要素として、インフラストラクチャだけでは不十分なのだ。何しろ現状では、ほとんどのアプリケーションがクラウドベースで快適に動作するよう設計されていない。
そのため顧客、特にホスティングおよびサービスプロバイダーは、VMwareなどのインフラベンダーに対し、自分たちに代わってアプリケーションを選別してくれるか、少なくとも他社より有利なスタートを切る手助けをしてくれることを期待している。
そこで、Zimbraの出番というわけだ。Zimbraのテクノロジは最初からクラウドアプリケーションとして設計されているため、VMwareは「Microsoft Exchange」に十分対抗しうる競合製品を手に入れ、ホスティング企業やサービスプロバイダーに提供できるようになる。MicrosoftやIBMなど、クラウド市場におけるライバル企業のアプリケーションを販売しなくてすむのだ。
VMwareはすでに、SpringSourceと傘下のHypericを買収し、Linuxを採用したことで、MicrosoftやIBMなどが提供するクローズドなクラウド製品に代わるオープンソースの選択肢として、急速に存在感を増しつつあった。そして今回のZimbra買収により、VMwareは、オープンソースの手法を維持しながらアプリケーションレベルで競争できる力を手に入れようとしている。
これは賢明かつ大胆なアプローチだ。しかし同時にこれは、クラウドコンピューティングにおけるインフラ戦争で放たれる最初の攻撃の矢が、どう見てもアプリケーションだという皮肉を示してもいる。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。原文へ
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