アニュアルリポート(年次報告書)が出回る季節となった。四半期決算が定着し、3カ月ごとに企業の業績や動向は明らかになるが、それでも年1回のアニュアルリポートを待ち望む内外の株主・投資家、アナリストは少なくない。
しかも、ウェブサイトへのアップで待ち時間は限りなく短くなった。アニュアルリポートのサイト掲載はひとつのイベントなのだ。しかし、アニュアルリポートの詳細な分析や大量の文章を、そのまま画面で読み通すのは大変だ。
たとえば、PDFの体裁で掲載されたアニュアルリポートが分冊もされず、容量やダウンロードの時間も明示されていないとなれば、アクセスした人たちが、読み始める前に、その企業の市場に向きあう姿勢に疑問を感じ始めても不思議ではない。
この7月末に応募を締め切った英国IR協会(IRS)が主催する「ベストプラクティス賞」。アニュアルリポート部門の表彰は、その「ベストプラクティス」基準に基づいて審査してきた。
アニュアルリポート部門の「ベストプラクティス」基準は「印刷リポート」と並んで「オンラインリポート」という項目を盛り込んでいる。ここでオンラインというのはウェブサイトのことだ。表彰のタイトルに「アニュアルリポート賞(印刷・オンライン)」と表記されているのは、そうした背景があるからだ。
IRSが用意した「オンラインリポート」のガイドラインは、さながらベストサイト構築に向けたコンテンツやデザインのチェックリストを網羅しているかのようだ。
印刷文書で作成されたアニュアルリポートのコンテンツはすべてサイトにも載っていなければならない。アクセスの速いHTMLと文書保存向けのPDFの2つのフォーマットで作成する。関係するページがあれば相互にリンクを張る。テキストに業界用語や専門用語があれば用語集にリンクした編集を行い、双方向で操作できるグラフやチャートや財務データをエクセルでダウンロードできるデザインとする。
このほかにも、ユーザビリティやアクセシビリティ、ナビゲーション、適時性フィードバックなどについても、丁寧に書き込んでいる。
2008年の「アニュアルリポート賞(印刷・オンライン)」はFTSE100部門で大手保険・金融のリーガル&ゼネラル、FTSE250部門で電子部品プレミア・ファレル、外国企業部門では独大手化学BASFなどが選ばれた。当然、その選評にウェブサイトのアニュアルリポートの出来が言及されている。IRSの「ベストプラクティス賞2009」は、9月28日に第1次審査の通過企業が発表され、最終結果は11月25日の授賞式で発表される。
日本企業でもアニュアルリポートの作成は、IR担当者にとって年間で最大の仕事の1つだ。各社とも米国企業にならって、英文のアニュアルリポートを長年にわたって、外国人株主・投資家向けに作成してきた。
日本IR協議会の「IR活動の実態調査2009」によれば、印刷文書として作成する企業は、日本語版で220社、英語版で388社。サイト向けに製作する企業もそれぞれ217社、387社に達する。英文版が多い。日本語版が作成されるようになったのは、この10年ほどのことだ。
サイト掲載では、日本語版が288社、英語版は382社もある。いま、サイト掲載の実情を知らず、印刷文書だけでアニュアルリポートの優劣を語ることはIR現場では意味がない。
ところが、国内のアニュアルリポート表彰は、これまで印刷文書を対象にしてきたという。こうした表彰の選考や評価にサイト掲載の状況が入ると、印刷文書の理解とは異なるアプローチが展開され、IR現場へのフィードバックもさらに期待できると指摘する向きは少なくない。
◇ライタプロフィール
米山徹幸(よねやま てつゆき)
大和総研・経営戦略研究所客員研究員。近書に「大買収時代の企業情報〜ホームページに『宝』がある」(朝日新聞社)ほか。最近の論文に「ついにXBRLの企業情報時代が始まった」(「広報会議」09年10月号)、「日証協、アナリストカバレッジの向上で提言」(「月刊エネルギー」09年9月号)など。
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