医薬品のネット販売規制を定めた厚生労働省省令をめぐり、ケンコーコムとウェルネットが国を相手取って起こした行政訴訟の初弁論が7月14日、東京地方裁判所にて開かれた。
今回の口頭弁論では、原告であるケンコーコム代表取締役の後藤玄利氏、有限会社ウェルネット代表取締役の尾藤昌道氏、原告代理人で弁護士の阿部泰隆氏の意見陳述が行われた。
6月1日より施行されている改正薬事法により、市販薬は、副作用のリスクが高い順に第1〜3類の3つのカテゴリーに分類された。厚労省の省令では、このうち第1類と第2類について、「対面販売」による情報提供を前提とし、インターネットなどでの通信販売を禁じた。なお、同じ医薬品を継続して利用する人や離島に住む人に対しては、2年間の継続販売を例外的に認めている。
今回の訴訟で原告側は、この省令が違憲であるとして、(1)第1類、第2類医薬品について、郵送等販売方法により販売する権利・地位があることを確認する、(2)薬事法施行規則等の一部を改正する省令で定める“対面販売の原則”について無効を確認する、(3)同省令の条項を取り消す--この3点を請求している。
後藤氏は意見陳述で、「対面の原則であっても、ドラッグストアでバイトがレジを打つだけでほとんど会話も交わさないという店頭の販売現場と、ネット上で副作用情報を見た上、メールや電話で薬剤師と相談しながら医薬品を購入するネット販売のどちらが副作用リスクの情報提供を行えるか」と医薬品の販売現場の現状からネット販売の安全性を説く。
その一方で、改正薬事法の施行直前に特例販売業許可を取得した医薬品メーカーが僻地に店舗を置き、通信販売を行っている現状を説明し、「厚労省は実態として店舗が情報提供を行わなくても看過し、伝統薬メーカーの脱法行為まで容認している。しかしネット事業者はやむを得ず法令を遵守した販売をしている。正直者が馬鹿を見るとはこのことだ」と語った。
口頭弁論後に開催された会見で後藤氏は「不条理な改悪省令で日々甚大な被害が出ている」と改めて説明した。すでに報道にあるように、薬事法が改正された6月の同社売上は40%以上落ち込んだ3766万6000円となっており、年間では5億円規模の落ち込みを想定している。「一刻も早く解消されて、安全なネット販売ができるよう強く望んでいる」(後藤氏)
また後藤氏は、公判中に裁判長が今回の訴訟について「重大な憲法事件」と数度コメントしていたことに触れ、「この問題に対して真摯(しんし)に考えていただいていると感じた」と語った。
尾藤氏もウェルネットの6月以降の売上について触れ、「6月の1カ月で販売を断った2類の額は100万円を超えている。一度購入したユーザーがリピーターになることもあり、年間の売上低下は計り知れない。4月の売上が600万円だったがそれが450万円になっている。家族経営の会社としては非常に厳しい」と語った。
さらに第3類のみがネット販売を許可されている点について「これは言葉のマジック。(3類である)ビタミン剤や整腸剤、うがい薬しか置いていない店を薬屋と呼べるだろうか。“ネット販売規制”でなく“医薬品のネット販売禁止”と同じ」と語気を強めた。
原告代理人の弁護士である阿部泰隆氏も「ネットだけがおおよそ不合理に差別されている」とした上で「違憲の暴挙。こんな法令が出たことがない」と語る。
口頭弁論では3人の意見陳述に加えて、(1)6月1日以降も店舗等における対面販売での情報提供に変化が見られないが、厚労省としてどのような取り締まりを行う予定であるか、(2)再春館製薬所など一部の会社が、特例販売許可を利用して僻地から医薬品の通信販売を行っている実態について、どのように認識しているのか、(3)薬事法36条の6大4項で第1類医薬品の情報提供について、購入者から説明を要しない意思の表明があった場合、条文を適用しないとしていながら、インターネットで情報提供し、それで十分であるという購入者の意思が表明されてもネット販売が禁止される理由の説明--の3点についての求釈明書が提出された。
原告側は「日々経営上大きな被害がある」として早期の審理を求めたが、国側は「対応に時間がかかる」としており、第2回の弁論は9月1日に開催されることとなった。次回は国側から求釈明書への回答などが行われる予定。
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