マルキュー成功の要因は何か - (page 2)

 続いて、現在に至るまでの経緯をご説明していただきました。

 当社は1946年に新宿の大通りで創業しました。創業から現在に至る60年間を振り返ると、大きく分けて、4つの大きな転機がありました。

 まず、最初は1946年という年に商売を始めたというタイミング。次に、1964年に新宿ステーションビル(現在のルミネエスト)という駅ビルにテナントとして最初の支店をオープンしたということ。さらに、1986年にセシルマクビーというブランドを誕生させたこと(実際には、この時期に、他のブランドも一緒に誕生させています)。

 そして最後に、1996年にSHIBUYA109がいまのような形で大ブレイクしたということ。その際に、セシルマクビーも同時にブレイクしました。

 こうしてみていくと、かなりきれいに10年ごとに特徴的な取り組み分かれていますね。さらに、各々の時期についてのご説明が続きます。

 1946年はまさに戦後の我が国がスタートした年にあたります。文字通り戦後の新宿は闇市からスタートしました。当時はモノが殆どなかったので、専門店としての勝負のポイントは品物をできるだけ集めるという1点にありました。商品があれば面白いほど売れた時代です。

 それが、1960年代になると、日本は高度経済成長期に入り、世の中では「流通革命」が進行しました。1957年にはダイエーが創業するなど、小売はチェーン店化が進行します。同年、川崎に日本初の駅ビルが開業しました。さらに、1969年には玉川高島屋SCやPARCOが開業し、1964年には新宿で駅ビルが開業しました。このような一連の流れの中に入って、日本の高度経済成長期の波に乗ることができたということが大きなポイントではなかったかと思っています。

 さらに70年代には、ますます経済成長が進み、高度大衆消費社会に突入しました。この時期は、専門店もショッピングセンターも駅ビルも多店舗化が進み、「ナショナルチェーン」とよばれるように全国に順調に展開していきました。ジャパンイマジネーションも駅ビルやファッションビルに次々と出店し、事業規模が順調に拡大しました。

 なるほど、日本の小売業の変化と軌を一にしてジャパンイマジネーションも変化していったのですね。しかし、駅ビルやショッピングセンターは今となっては、小売の重要な拠点であると認識されていますが、実際にそれができた当時は一種の「チャレンジ」ではなかったかと思います。新しい取り組みに対し、果敢に取り組むことでチャレンジを可能にする組織づくりができたのではないでしょうか。それが、この後に訪れる変化への対応に奏功したのではないでしょうか。さらに80年代以降のご説明が続きます。

 このような順調な成長は80年代に入ると頭打ちになりました。特に、80年代の最後にはバブルの時代を迎えました。まさに、飽食の時代で、モノが行き渡り溢れていました。専門店はそのような時代の中、新しい消費者に対してどのように売っていくか、なかなか苦労をする時代になりました。消費スタイルの変化に対応し、この時期に、セシルマクビーやエージープラスなどを含む新しいブランドを作り始めました。

 何の特徴もない商品はお客様から目を向けられなくなってきました。差別化された商品がないと競争に勝てなくなってきたという時代がこのころから始まります。

 現実にブランド認知がされ、ブランドとして購入していただけるようになったのは、それから実に10年後になります。1996年になって、ブランドとしてお客様が買ってくれるようになりました。

 その時、渋谷に「セクシーカジュアルの突風」が吹いたのです。セシルマクビーというブランドが、その風を受けて思いもかけない高さに舞いあがりました。それと同時に、SHIBUYA109というショッピングセンターも、日本ではおそらく初めてショッピングセンターそのもののブランド化に成功したのでした。

 セシルマクビーが誕生したのは1986年ということです。ですので、ちょうど10年が経った際に、SHIBUYA109を中心に「セクシーカジュアルの突風」と表現されたようなブームが到来したのです。ブランドの育成には時間がかかりますし、これも絶妙なタイミングでブームが到来したのだと思います。

 戦後の60年の歴史は、「作る人が偉かった時代」から「売る人が偉かった時代」と推移し、最後の10年間は、「使う人が偉い時代」に変わりました。このような大きな流れがあるのではないかと感じざるを得ません。

 モノがなかった時にはモノを作る人が偉かった。モノがなかったのであれば売れたのです。次の時代は、売る人がだんだん力を持ち始めました。そして最後の10年間では、「使う人」、すなわち消費者が力を持ちました。ここに至り、本当の意味で「お客様」が「神様」になったのです。

 この「使う人」(=消費者)が王様になったという時代を一番象徴し、この時代の、この流れの中で、一番成功した事例が「マルキュー」ではないかと思います。

 消費者が真の意味で「神様」になった、という言葉は消費の変化を象徴していのではないかと思います。消費者が学習によって消費の水準を向上させていったという一見わかりにくい変化が10年ほど前に起きていたというのです。このような変調をいち早く認識し、対策を徹底的に実施した企業として、ジャパンイマジネーションを含むSHIBUYA109に出店している企業があるのですね。

 まだまだ講義は続きます。次回は、本題である「マルキュー成功の要因」から進めていきたいと思います。ご期待下さい。

七丈直弘 Naohiro Shichijo

東京大学大学院情報学環准教授。1970年静岡生まれ。博士(工学)。ネットワーク解析など数理的手法を用いて、知識の生産と伝播によるイノベーションを研究。コンテンツビジネスにおける能力形成のモデル化や企業の戦略分析を行うとともに、プロデューサ育成も行っている。特にアニメ・動画には造詣が深く、また、UNIX技術本の翻訳なども手がけている。2008年度はキャラクタービジネス研究で注目を集めた。

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