スタートアップ企業の徹底支援で投資の成功率を高める--グローバル・ブレイン百合本氏(後編) - (page 2)

百合本:ひとつはモバイル。iPhoneやAndroidの出現には関係なく、消費者がインターネット端末としてモバイル端末を使っていて、市場規模は大きいと考えています。

 2つ目はPtoP、特にPtoPファイナンスと呼ばれる分野です。社内では「PtoPエコノミクス」と呼んでいますが、消費者と供給者の立場がこれまでと変化し、消費構造自身が変わってきています。PtoPファイナンスなどは、インターネットだからこそできる新しいビジネスモデルだと考えています。

グローバル・ブレイン代表取締役社長の百合本安彦氏 グローバル・ブレイン代表取締役社長の百合本安彦氏

 3つ目はコマースアンドサービスですね。この分野で注力している会社として、具体的には、eSPORTSという会社があります。総合スポーツ通販ではおそらくナンバーワンのECをやっています。同社は弊社のグループ会社になっています。2008年に東証2部上場のヒマラヤから買い取りました。

 ECに対して消費者の要求は厳しくなっています。それに対応するため、優れた技術を持つ別の支援先会社の技術を導入したり、ロジスティックスサービスを組み合わせることで、Amazon.co.jpと同等の物流サービスを提供しようとしています。

 ECには楽天とAmazon.co.jpという巨人がいますが、第3の勢力を作るべく事業を展開しています。景気が悪くなると、消費者の要求が明確に変わってくるという仮説があります。物流のサービスとして、Amazon.co.jpでもできないようなことを実現していきます。

 eSPORTSを核に提携のアレンジをしています。提携に際してはまず、相手先のコスト削減を支援する。それで資金をねん出してシステムなどに投資してもらい、売れる体制をつくったのち、物流での提携を進める。両者がわかり合った上で新サービスを作っていくという段取りです。

 今後はサービスのプラットフォームをほかの会社に提供していく予定です。Amazon.co.jpも楽天も、インフラをほかのイーコマースに売ろうとしているがそれと同じです。ロジスティックスだけでなく、決済やシステムも含めて提供することを考えています。

--大企業などとのアライアンスを重視されています。

熊倉:「グローバルブレイン・アライアンスフォーラム」というイベントを開催して、ネットワークを作ってきました。「人脈の中からビジネスをつくる」というシリコンバレースタイルがいいか悪いかはさまざな意見がありますが、現実にあることです。

グローバル・ブレインアライアンス担当の熊倉次郎氏 グローバル・ブレインアライアンス担当の熊倉次郎氏

 日本でもイコールパートナー(対等な関係のパートナー)としての人脈を作り、そこからビジネスを作り出しましょうとていしょうしています。イベント年2回開催しており、大企業からは感度の高い方に集まってもらっています。

 参加者は事業を改革したり、創造したりする人たちであり、事業の課題や次に取り組まなければならないテーマをお持ちです。そこでベンチャーと話ができるようにしている。そういった中から、具体的に支援というか、ビジネスのマッチングをしていくということで進めている。

 具体的な事例として、日本アイ・ビー・エム(IBM)のケースがあります。IBMは非常に強い企業で、日本では全体の十数パーセントの超大企業と直接の取引がある。しかし、逆に言うと、80数パーセントの会社とは取引がありません。

 IBMはプラットフォームでビジネスを展開しています。ですので、その上で動くアプリケーションやソリューションを手掛けるベンチャー企業と組んで、中堅中小企業の市場をとるという試みである「PartnerWorld Industry Networks (PWIN)」を進めています。

 そこで、われわれの支援しているベンチャーをアレンジしたわけです。ベンチャーとIBMの双方の状況を聞き、戦略を立案し、案件の狙いも定めて、IBMの競合企業が入っているところに提案していく。具体的には、ログソリューションのアイベクスというベンチャーについて、IBMとの協業を支援していて、すでにある大企業向けの共同営業で実績を出しています。

 IBMとのプロジェクトは1億円以上の規模になったりしますから、売上高が数千万円のベンチャー企業にとっては、大きい売り上げとなります。BtoBはものが売れない時代なので、短い期間で成果を出すと評価されます。支援先ベンチャーからIBMと組める会社をどんどん出していきたい。こうした取り組みはマイクロソフトやニフティでも事例があります。

百合本:アライアンスフォーラムには300人くらい参加してもらっています。日本を代表するような企業からも参加があります。これまでに3回開催しており、2009年もモバイルを軸として大企業とベンチャーが集まるイベントを企画中です。モバイルベンチャーのビジネスコンテストも実施する予定です。

--ベンチャーキャピタリストではなくコンサルタントという表現をされていますね。

百合本:基本的にはベンチャーキャピタリストなのですが、キャピタリストという言い方は社内ではしていません。というのも、日本で「ベンチャーキャピタリスト」と言うと、従来型のベンチャーキャピタリスト、つまり、営業力で出資して、あとは流れに任せる--というイメージがあります。そのようなベンチャーキャピタリストとは異なり、深く経営に関与するということで「コンサルタント」と呼んで差別化をしています。

 育成手法も特徴があります。先ほど申し上げたeSPORTSには常駐で人を送り込んでいます。6人くらい張り付いて相当力を入れています。われわれとファンドで100%の株式を持っています。

 我々のスタッフは現場で働いていて、それによってマネジメントの経験ができるわけです。実際に現場に入ることによって当然収益の責任も持っているので、シビアに日々の売上利益も管理されます。ここでの厳しい経験が今度、支援する側に回った時に、大きく役立つわけです。将来、非常に大きな強みになってくると考えています。

--社内にはどんなメンバーがいますか。

百合本:私は富士銀行(現みずほ銀行)で企業への融資などを担当していましたが、「銀行というのは一般に雨の降った時には傘も貸さない」といった批判を受けており、バブルを経て「虚業」とまで言われるようになっていました。それを実業化させるためには正しい形で企業を支援する必要があると感じ、30歳の時に銀行を辞めました。 ベンチャー企業に直接関与することによって、経営のパートナーとして、二人三脚で企業を大きくしていく--われわれはあくまで黒子ですが、そうすることで実業に近付くことができると思ったわけです。

 弊社には証券会社の出身者は1人もいません。証券会社の方が悪いというのではありませんが、ベンチャーキャピタルというのは本当に農耕型のビジネスで、種をまいて日々支援して5〜7年育ててやっと刈り取るというサービスです。忍耐力というか好きでないとできない。ベンチャー企業に深く関与して、徹底的に経営者とパートナーとして、やることが好きな人には楽しい。

 メンバーは現在20人で銀行出身者のほか、監査法人や上場企業のCTOだった人物などが居ます。また、われわれはチームワークを重視しています。この事業は私という1人のベンチャーキャピタリストで成り立っているわけではない。みんなの力で事業が成り立っているという認識です。

 ですので弊社では「私は」という一人称は厳禁で「私たちは」「グローバル・ブレインは」と言うことになっています。そういったスタンスからホームページには私も含めてパートナーの写真も出していません。「私が」といった瞬間にチームワークは崩壊してしまう。

 社名はインテグリティ、コモンセンス、誠実さという意味合いでつけました。URLも「globalbrains」となっており、(複数形を指す)「s」がついています。私1人の知恵ではなくて、社員みんなの知恵でやっていくということを示しています。すごく熱い会社なんですよ。

--社会起業家の支援にも取り組んでいます。

百合本:はい。会社として支援しています。日本は今、起業の数が少なくなったり、日本発のイノベーションが少なくなったりとか、世界で埋没しつつあります。脱却するにはやはり起業家を育てなければいけない。社会的課題に果敢にチャレンジしていく社会起業家の方もその対象です。われわれが培ってきたノウハウを使って後押ししていこうと考えています。

 社会起業家支援といってもビジネスモデルをちゃんとつくって、社会変革を持続的にやっていけるサステナブルな社会起業家を対象としています。場合によっては株式公開もしてくださいと言っています。今度、会社として、社会起業家にファンドから投資するのですが、これは公開も狙える社会起業家です。

 ビル・ゲイツが慈善団体を設立したといった事例は米国にはありますが、日本ではまだないと思います。資金と人のよい循環を作り出していきたい。そう考えた上での社会起業家支援なのです。われわれの社会的使命、ミッションだと考えています。そういう社会起業家を育てて、得た資金をさらに次の社会起業家に投資してほしい。2008年、東京チェンジメーカーズという組織を作り、第1回アワードを発表したところです。

 いまの社会起業家は補助金や寄付金で成り立っているところが多いと思います。ほとんどボランティア団体で、責任者は苦労しているが結局お金が続かず、事業規模を大きくすることができない。われわれはホームレス支援の有限会社ビッグイシュー日本やフェアトレードのマザーハウスのような、儲ける仕組みをきちんとつくっているところを支援していきたい。

 欧米では、ベンチャーキャピタリストが社会起業家を支援するのは自然な流れですが、日本にはまだあまりありません。ですからグローバル・ブレインは社会起業家支援のパイオニアとしてやっていきたい。

 「社会起業家とベンチャー起業家は何が違うか」と考えたとき、それほど違いがあるでしょうか。起業家精神としてはまったく同じで、インフラも同じです。また社会的ニーズが高いところで事業をするのも同じです。ただ、日本のベンチャー起業家が小粒なように、社会起業家も小粒。これから成長していく分野だと思います。

 また、学生起業家の支援もしています。ビジネスモデルの勉強会をやったり、ベンチャー企業経営者の人たちと引き合わせたりしています。1カ月に2回くらい学生向けの起業塾「Global Brain Student Entrepreneurs Community(GBSEC)」もやっています。起業するかしないかにかかわらず、学生時代に起業家精神を学んでおくことは必要です。

 「よくこんな面倒なことをやっているな」と人から言われるのですが、1つ1つがつながっていて、この蓄積がグローバル・ブレインの競争優位性になっていると考えています。また、実際、こういう活動に共感して入社してくる人材も多いのです。優秀な人材は確実に増えています。

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