それは1通のメールから始まりました。去年の12月18日、Googleの絵文字符号化の担当者にしてUTCのシンボル符号化小委員会議長、マーカス・シェラーが、Unicode-MLで絵文字のパブリックレビュー開始を知らせたのです。このレビューで寄せられたコメントを元に提案を修正、それを翌年2月に開催されるUTC会議にかけようという目論見でした。
まだ数日の間は静かでした。ところが12月20日をすぎる頃から投稿数がうなぎ登りに上昇し始め、3カ月後の翌年2月までの投稿数は1,002通に及んだのです。その多くは絵文字の収録を非難するものでした。なかにはひどく感情的なものもあり、それに煽られるように新たな投稿が殺到していきます。まさしくこれは我々が「祭り」として知っている現象そのものです。以下のグラフをご覧ください。
これはUnicode-MLに投稿されたメールの数を日毎に集計したもの。絵文字のパブリックレビューは12月18日に開始され、翌月2009年1月14日に終了しました。一方でこの3カ月の投稿数の平均をとると約11通になるのですが、切りのいいところで1日に15通以上(赤線)の投稿があった日を黄色の背景にしてみました。それを見ると正月に谷間はあるものの、やはりパブリックレビュー中に投稿が集中しており、それ以外、とくにUTC会議の開催後は一転して地を這うような投稿数になったことが分かると思います。(3月以降も絵文字についての投稿は多くありません)。
前述したようにUnicode-MLではUnicodeの話題全般を取り扱いますが、日毎に整列させたインデックスを見ると分かるとおり、この期間中に投稿されたメールのタイトルはほとんどが絵文字絡みのものばかり。つまりこの期間、Unicode-MLは絵文字の話題で占領されたわけです。注目すべきは、メンバーの多くを占める欧米の人々(たぶん全員が男性)にとって大事なはずのクリスマス前後も15通を下回らなかったことで、家族そっちのけで議論に熱を上げていたことを意味します。まあいい迷惑ですよね。気をつけないと。
では、彼等は絵文字の何にそんなに反発したのでしょうか? それを探ることは、彼等が絵文字をどのように受け止めたかにとどまらず、絵文字というものが日本以外からどのように見えるのかが分かるはずです。どうです、知りたくありませんか? しかし、さすがに1,002通ものメールとなるとそう簡単にまとめられません。そこでまず、代表例としてUnicode-MLで議論が沸騰する以前、公式ページの方に投稿されたある人のコメントを紹介しようと思います。
ある人とはリック・マゴウワン(写真1)。Unicodeコンソーシアムの4人いる副理事長の1人。創立当初からのメンバーであり、かつてNeXT SoftwareやAppleにエンジニアとして在籍し、現在は未収録の古代文字を標準化することに積極的に取り組んでいる、そのようにコンソーシアムのウェブページで紹介されています。つまり、この人はコンピュータと文字に関しては指折りの専門家と考えてよいわけです。
ここで紹介するのはパブリックレビュー開始直後である12月19日と翌20日の2回分の内容。これは前述のUnicode-MLでの「祭り」が勃発する以前です。だから他人の意見の影響をうけておらず、素朴に1人の専門家が提案をどう見たのかが観察できる例と言えるでしょう。ただし全部はとても掲載できないので一部だけです。
もっとも、この時点の提案では現在の文書にあるような絵文字フォントは完成しておらず(完成は翌1月7日)、まだ3キャリアのうちの1つを仮に代表グリフとして載せていました。だからレビューする側も今ひとつイメージがつかめないままコメントしていたので、ちょっとポイントがずれている場合があり得ることに注意してください。
ではマゴウワンのコメント訳を見ていただきましょう。ここでは彼のコメント(ピンクの欄)だけでなく、それに対するGoogle側の返答(水色の欄、マーカス・シェラーとマーク・デイビスのもの)も訳しました。文字の形は当時マゴウワンが見ていた仮のものです。対比するためにその後ISO/IEC 10646に提案された絵文字を右の方に掲載してあります。ついでに、これらを評価する筆者のコメントも載せたので参考にしてください。
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