これまで、2回にわたってファッションを中心とする話題について扱ってまいりました。あまりにファッションに偏り過ぎたきらいもありますので、今回は少し軌道修正しようと思います。そこで、これまで触れてきた重要なポイントの1つである「我が国が持つ豊かなユーザー」とその可能性について議論していきたいと思います。
読者の皆さんは「知的財産推進計画」というものをご存じでしょうか。
これは「知的財産を創造し、保護し、活用するための推進計画」とされており、2003年の決定以降、毎年改訂されています。その内容は、内閣府知財本部における議論を踏まえて毎年決定されていますが、研究開発、コンテンツ、模倣品対策、日本ブランドなどといった幅広い領域についての政府の方針が書かれており、大変興味深いものです。
知財本部といえば、「コンテンツ専門調査会」、「コンテンツ・日本ブランド専門調査会」なども開催されていますので、コンテンツ産業に関心をお持ちの方は、すでにチェックされていることでしょう。
さて、内閣府知財では知的財産推進計画をアップデートするために、最新版(2008年版)へのパブリックコメントの募集を先日行っていました。この計画は、我が国政府のコンテンツ産業推進の方向性を示すものであり、非常に重要な意味を持ちます。
先回りして結論を申し上げてしまうと、知的財産推進計画ではユーザーの役割には着目してはいるものの、その具体的支援についてはまだ提案されていません(知財本部がごく最近出しました「日本ブランド戦略」においても豊かなユーザーをどのように知財化していくかについては触れられておりません)。
今回は、「知的財産推進計画2008」で触れられている「ユーザー目線のモノづくり」に近い部分を拾いながら、私の立場から、知的財産戦略のいわば「別解」を考えていきたいと思います。
では、章ごとの内容について順を追ってみてゆきましょう。
第1章「知的財産の創造」では、我が国はR&Dは優れているけれど、知財化しきれていない部分があると指摘されています。実際には、R&Dの成果のより多くの部分で知財化は可能なはずであり、それを進めるための制度を企業、大学側で整えようという話になっています。
第2章「知的財産の保護」では、生まれた知財を迅速に保護するために知財化を迅速に行い、スループットを確保しようという話が前半にあり、後半では模倣品対策に割かれています。
第3章「知的財産の活用」では、生み出された知財を使うユーザーの育成、知財とユーザーが出会うためのマーケットの創設などが論じられています。ここでのユーザーはあくまで企業が想定されています。
これらの章は、比較的に「占有可能性の高い知的財産」について述べられている部分です。「占有可能性」とは英語でAppropriabilityのことを意味します。「占有」とは、知識を生み出した人がその成果を独占的に享受できることをここでは意味しています。これは、新しい知識を生むためにきわめて重要なインセンティブです。
これらについては、まったく異存はありません。研究開発のライフサイクルに沿って整理されており、非常に理解しやすいと思います。この次の章で、やっとコンテンツが論じられます。
第4章「コンテンツをいかした文化創造国家づくり」では、「デジタル・ネット時代に対応したコンテンツ大国を実現する」と題され、コンテンツを配布するインフラであるネットワークの整備と、クリエーターの創作環境の整備の必要性が前半で論じられています。後半では、「日本の魅力をいかした日本ブランド戦略を進める」と題されており、ブランドの育成、収益化について論じられています。
最後に、第5章「人材の育成と国民意識の向上」では、知財に関する国民意識の向上、啓発などが論じられています。
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