技術の進化とインターネットの普及で、テレビは今後どう変わっていくのか。「AV機器マニア」を自負するソニー・コンピュータエンタテインメント名誉会長の久夛良木健氏と、津田塾大学講師でオーディオ・ビジュアル評論家の麻倉怜士氏が、3月19日に都内で開催されたイベントにおいて、テレビの未来について議論を交わした。
このイベントは、ワイアードビジョン、アスキーメディアワークス/アスキー総合研究所、慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科の3者主催によるもの。司会はアスキーメディアワークス アスキー総合研究所所長の遠藤諭氏が務めた。
久夛良木氏は今後、あらゆる動画がネット上に存在し、テレビはそれを映し出すだけの装置になると予言する。「IPTVになれば、無数のコンテンツが世界中に存在することになる。電波の場合は周波数が有限のため、チャンネルという概念があったが、これからはチャンネルではなく、コンテンツを見るというエクスペリエンス(経験)の時代になる」(久夛良木氏)
ユーザーはいつでも好きなときに、好きな端末でネット上にある膨大なコンテンツの中から、好きなものを楽しめるようになるというのが久夛良木氏の考えだ。これまでユーザーは、テレビ局が放送した番組をリアルタイムに見るか、HDDレコーダーなどに録っておく必要があった。しかし今後は、ネットにつなげば好きなものを自由に視聴できるようになると予測する。
「今まではチャンネルのあるものがテレビだった。しかしこれからは、画面が付いているものはみんなテレビだということになる。どこでもドアのように、見たいものがすべてどこでも見られるようになる」(久夛良木氏)
コンテンツのあり方も変わると、麻倉氏と久夛良木氏は話す。たとえば画質や音質にこだわるユーザーには、同じ番組でも高価格でデータ量の多い高品位動画が、品質にこだわらないユーザーには低価格ですぐにダウンロードできる低品位の動画が配信される。また、野球やコンサートなどの中継映像では、カメラの位置などをユーザーが指定できるようになるのではないかとした。
YouTubeやニコニコ動画など、ネットで動画を見られる環境は整いつつあるが、検索などの仕組みはまだ発展途上だ。今後はこれらの分野の技術革新が進むと久夛良木氏は語る。ネットワークでつながったサーバ群が連携して分散処理し、膨大な計算量が必要な動画でも問題なく扱えるようになるというのだ。
「いまは文字ベースでの検索やマッシュアップだが、これがぐりぐり動き出す世界がいつかくる。クライアントで処理しようとすると数十年かかるが、複数のアルゴリズムとデータベースがクラウド的につながれば、これまで考えもしなかったようなことが起こるだろう」(久夛良木氏)
たとえば最近のカメラで標準搭載されている「笑顔認識技術」のように、メタデータがなくても動画の内容をシステムが自動的に理解し、ユーザーが欲しい動画だけを抜き出すといったことが可能になるというのだ。
そこで求められるテレビの機能については、「HDMIなど最先端の接続機能と、JavaやFlashが動くブラウザ、最新のネット環境が今後数年間利用できるプラットフォームが欲しい。逆に、それ以外は要らないから入れないでと言いたい。新しいプラグインが入れられないといったことはして欲しくない」と久夛良木氏。つまり、柔軟性と余裕のあるプラットフォームだけを搭載し、ネット経由で機能の拡張やカスタマイズができるテレビこそが、今後求められる姿だとした。
また、麻倉氏は今後、テレビにまつわる4つのものがなくなると予想する。それは「ケーブル」「ディスプレイのフレーム」「スピーカー」「リモコン」だ。まず接続はすべてワイヤレスになり、ケーブルは不要になる。壁一面がディスプレイとなり、スピーカーも埋め込まれる。そしてユーザーの動きや視線、脳波などをテレビが読み取って操作される。
実際、2008年に米国で開催された家電展示会「Consumer Electronics Show」(CES)では、パナソニックが壁一面のディスプレイ「Life Wall」を披露し、必要に応じて映像を写しだす様子を示した。また、東芝は2009年のCESなどで、ジェスチャーによってテレビを操作するデモンストレーションを披露している。これらの技術は、試作ベースでは実現しているものが多い。
「未来のテレビは桁違いの可能性を秘めている。電波と違って、ネットには国境がない。文字が映像に拡大するだけで、とてつもないことが起こるだろう。10年後ではなく、もっと早い時期に動き始めるのではないか」(久夛良木氏)
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