ad:tech London 2008にみる英国インタラクティブ・エージェンシー最前線(後編)

 メディアの多様化によりノイズが増加した生活の中であっても、生活者に「インパクト」を与えるコンテンツを確実に提供することこそがプロフェッショナルとしてのインタラクティブ・エージェンシーの使命だ。

 前編に続き、ロンドンで開催されたad:tech London 2008でのディスカッションの詳細を、コンテンツ・キャピタル・デザイン・カンパニーTHINKのインタラクティブ・カンパニー・プロデューサー牛山隆信氏がレポートする。

広告先進国、英国のモバイル事情

 英国の広告市場がネットを中心に回転し始め、単独のメディアとしてトップの地位に躍り出ることが確実になった今年2008年。前編では「ネットがテレビを2009年には追い越す」としたが、実質的には2008年中にネットが上回ることがほぼ確実になった。

 金融危機の影響下で、ますますテレビなどマスメディアの需要は低下しつつある。一方で、不況であっても──いや不況であればあるほど、より効果的な広告手法への期待が高まる。結果、生活者とのタッチポイントが明確なネット広告への期待は高まる一方だ。

 メディア環境、そしてメディア・ビジネス全般では、英国が日本の未来にあたる状況であることを前回述べた。しかし、唯一、モバイルについては事情が異なっている。通話やメール以外のブラウジングやコンテンツ利用が、日本では10代から浸透し、その中核利用者層であるのに対し、英国では24〜34歳がモバイル利用のコア層となっている。要するに「お金はあるが、時間がない」という人達がモバイル環境時に利用できるPCの補完手段として利用していると考えられている。

 具体的には、パケット定額制が日本ほど浸透しておらず、iPhone登場をきっかけにMID(モバイルインターネット端末)が普及し始めたものの、依然として利用するには大きな費用が必須の状況にある。また、モバイルでのサービス提供を計画する企業にとっては、ドコモのiモードのように通信事業者が利用料金の代理徴収サービスを提供してこなかったため、簡易に参入できる土壌が整備されなかったことなどが挙げられている。

 しかし、最近では、AppleのiPhoneにおけるiTunesやAppStore、Nokiaの同社の携帯電話端末向けインターネットポータルサービス「Ovi」など、メーカー主導でのサービス導入が過熱している。彼らは利用者課金や事業者向けのビジネスモデルの構築を、通信事業者に代わって行ったのだ。モバイルにおけるビジネス機会は確実に広がっていくだろう。

 英国のマーケティングにおいて、モバイルは重要なチャネルとして認識されてはいたものの、その領域は限定されてきた。リアルとデジタルを絡めたチャネル横断的なマーケティング展開のための1ツールとして位置づけられる程度だったのだ。しかし今後は、AppleやNokiaの戦略的サービス導入という流れを受け、よりケータイでのデジタル・コンテンツに対してフォーカスした展開が生まれるのではないかと注目される。

ad:techのディスカッションに見るトレンド

 前回も述べたように新興テクノロジーを用いた企業コミュニケーション全般を取り扱うad:techは、展示やキーノートスピーチといった比較的ワンウェイの内容だけではなく、双方向性の高いカンファレンスが多数用意されている。

 これらのカンファレンスは重複しているものも多々あり、すべてのプログラムに参加できるわけではない。しかし、敢えて全体を一言でまとめようとするならば、「多チャンネル展開とユーザーエンゲージメント戦略への実践」であろう。

 「多チャンネル展開」や「ユーザーエンゲージメントの創出」などのコトバは、近年よく耳にするバズ・ワードだ。これまで多くの人が、これらのコトバを流行りの如く口に出しながらも、その実践となるとはなはだ心もとない状況が続いてきたといってもいいだろう(もちろん、これらの言葉だけではなく、流行り廃りの早いメディア・ビジネスではつねにバズ・ワードは消費されてきたのだが)。

 ad:techで発表され、さまざまな視点から分析の対象となったケースをみると、実体を伴わない単なる流行ではなく、実践可能なレベルにまで昇華された知恵となりつつあるのではないかと感じた。すなわち、コンテンツやサービス、テクノロジー、戦略が、実際の広告ビジネスの現場におけるトライ・アンド・エラーを経て、クライアントや広告会社、メディアという広告ビジネスに関わるすべてのステイク・ホルダーの中で共有知として醸成され、成熟しつつある段階にある。

 このad:tech Londonの中核的な話題をいくつかに分けて次に掲げてみよう。

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