Joi Labsの伊藤穰一氏と慶應義塾大学総合政策学部教授の國領二郎氏が、「Business Success in Open Networks」(オープンネットワークにおけるビジネスの成功)をテーマに、業界に新風を巻き起こす“革命児”に対して成功の極意を聞く連載。今回は新生銀行取締役会長の八城政基氏に話を聞いた。その様子をダイジェストで紹介する。なお、対談の全編はCNET Japanビデオにて紹介している。
八城氏は1929年生まれ。エッソ石油取締役社長、シティコープ在日代表、シティコープ・ジャパン会長を経て、2000年3月に新生銀行 取締役会長兼社長に就任。2005年6月から2006年6月まで取締役会長を務め、その後はシニア・アドバイザーとなったものの、2008年6月に取締役会長に復帰している。
銀行の代表となった人物が、過去およそ30年に渡って石油会社に務めていたというのは、日本国内では異例と言っていいだろう。しかし八城氏は、「会社のトップに立ってマネジメントをするということに関して、業界の差は何もない」と断言する。むしろ、石油業界での経験が銀行業界を見る上で役に立つという。
八城氏は、「銀行はものの見方が短期的だ」と話す。石油業界の場合、油田を探すのに5〜10年、採掘に5年、生産過程に15年程度かかる。つまり、20〜30年の長期スパンで事業を考えるわけだ。これに対し、銀行は短期的な利益を追いがちになる。この傾向は加速しており、「昔は30年とか40年に1回程度だった不祥事が、過去25年で5つほど大きな問題を起こしており、サイクルが短くなっている」(八城氏)という。
しかも銀行の組織体系では、ゼネラルマネージャーが生まれにくいとも指摘する。「特定のある商品は非常に儲かるということになると、その商品を扱っていた人間が英雄になり、そのまま上に行ってしまう。全体を見るというものの見方はない。僕はこれを、ジャングルの中のトライブ(部族)の争いだと言っています。1つの銀行の中に複数の部族がいて、その中で一番強くうまくいった部族の長がトップに行ってしまう。だから、全体の利益ということを考える人がほとんどいない」
これに対し、例えば石油会社のエクソンモービルでは、35歳ごろまでは特定分野を担当し、専門知識を身に付ける。その後、世界中から50人程度の経営幹部候補生を絞り込み、それぞれに新しい分野での知識や経験を付けさせる。新生銀行ではこの方式を採用して人材育成をしているといい、「最初は専門性を備えるために専門的な分野での仕事を10年ほどして、それから人を選んで育てていく。みんな同じように扱うのは最も効率の悪い育て方で、効率よく育てなければならない」(八城氏)とした。
全社員の中から優秀な人のみを選び出して特別教育をするというのは、年功序列や終身雇用が前提だった日本の社会では抵抗する人が多い八城氏は感じている。しかし、「日本全体の経済力が良くならなければ、下のほうに今いる人たちも上がらないわけです。だから、何もしなければみんな同じように伸びないで、どんどんほかの国に比べて日本の力が弱くなっていってしまう」と警鐘を鳴らす。
競争が少ない日本の社会は、米国に比べて「暮らしやすくて、英語で言うとコンフォータブル」とも評価する。それは経済成長を遂げたからだと指摘する声もあるが、「日本のお金持ちは世界のお金持ちに比べたら問題にならないほどまだ日本の社会はそんなに豊かな社会だと思わない。富の集積ということから言ったら、日本の富は少ない。美術館や個人の住宅を見ればわかる。日本はもっと豊かな社会にならなくてはいけないので、それにはもっと努力する必要があるだろう」と八城氏は苦言を呈した。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
住環境に求められる「安心、安全、快適」
を可視化するための“ものさし”とは?