「みんなの意見」は専門家より正しい?--「群衆の叡智」をテーマにした2度目の討論会が開催

 「群衆の叡智」をテーマに、企業や開発者研究者などが集って討論する「群衆の叡智サミット(WOSC) 2008 Spring」が5月21日、開催された。

 同イベントは、2007年11月に続いて今回で2回目の開催となる。主催者であるテックスタイル代表取締役の岡田良太郎氏は「前回のサミットでは(ジェームズ・スロウィッキー氏の著書「『みんなの意見』は案外正しい(原題:The Wisdom of Crowds)」にならって)『みんなの正しいは正しい』という結論で議論を終えた。しかし、それを具現化するにはまだまだ課題が残る。今回のサミットでは、それらを議論し、果たして『群衆の意見は専門家より正しいのか?』という結論につなげたい」と冒頭で挨拶した。

ソーシャルブックマークに見る「意見の多様性」の重要さ

 続いて開催されたパネルディスカッションでは、岡田氏をモデレーターに「『群衆の叡智』につながる条件とメカニズム〜人々の関心とムーブメント--はてなブックマークの明日はどっちだ?」と題して、登壇した6名のパネリストらがそれぞれの立場で意見を交わした。

テックスタイル代表取締役の岡田良太郎氏 テックスタイル代表取締役の岡田良太郎氏

 今回のパネルディスカッションは、群衆の叡智のメカニズムに焦点を当てて進められた。まず、はてな執行役員CTOの伊藤直也氏が、同社が運営する「はてなブックマーク」の概要と課題を紹介した。同サービスは、現在、15万5000人の延べ登録ユーザー数、月間300万ユニークユーザーを有し、ブックマーク数は2480万件、エントリー数は861万件にのぼる。

 人気投票ではなく、各々のユーザーがブックマークした結果がそのままランキングに反映される点が特徴だが、今後の課題として、(1)統計的手法による情報の集約、(2)ソーシャルメディア的性格の認知--の2点が挙げられた。「単純なブックマークだと、マスに近づいていく。個々人にカスタマイズしていくことが重要」(伊藤氏)

 さらに伊藤氏は「JR福知山線の事故のとき、マスメディアは救助に向かわなかったほかの職員を避難する報道をした。しかし、2日後に、『もし全員が救助に向かっていたら、ほかの現場での2次災害につながっていたかもしれない』という書き込みがあり、いろんな意見があってそれをすくい上げるころも大切だと実感した」というエピソードを紹介し、意見の多様性を保つことの重要性が強調された。

オープンソース普及のカギは

 また前回のサミットで「オープンソースは集合知か?」という議題に対して「集合知である」という結論が出されていたが、今回登壇した日立製作所ソフトウェア事業部OSS推進センタのセンタ長である鈴木友峰氏が「オープンソースソフトウェア(OSS)の開発モデルと企業間協調(の一側面)」と題し、オープンソースの開発の現状について紹介した。

 鈴木氏はオープンソース開発の現状を表す統計を紹介し、「1人あたり1〜2つのプロジェクトに週平均2時間以下で開発に関わることが主流のオープンソース開発では、リーダーシップのあり方や、企業や個人のモチベーション次第で、開発力は無限にもゼロにもなり得る」と説明する。

 さらに、OSSの普及を加速するには「機能や性能よりもコミュニティーが取り組みにくいネタかどうかもカギとなり、評価プロジェクトの役割が重要となる」(鈴木氏)と語った。また、WASP代表取締役の生越昌巳氏は「商用は安くすれば売れるが、オープンソースははじめから無料なので、優越性が確立してしまうと逆転は起こりえない」と指摘した。

ビジネスの立場から見た「群衆の叡智」

 IBMビジネスコンサルティングサービスからは、戦略コンサルティングパートナーの伊藤久美氏が参加。ビジネス的な立場から見た群衆の叡智について語った。伊藤氏は、群衆の叡智を実現するための条件として、他人に左右されない「独立性」、異質の集まりであるという「多様性」、結論を出すしくみを持つという「集約性」、個別の情報源を持つという「分散性」と4つの項目を挙げ、これらを軸にして導入した同社内のさまざまなプロジェクトを紹介した。

 また、プレディクションが運営するユーザー参加型未来予想サイト「Prediction」についても紹介された。Predictionでは、未来の状況を仮想の株式や賭けに見立ててさまざまなユーザーが予測をする「予測市場」のサービスを提供している。

 これに対してほかのパネリストからは「多くの群衆が感じ取ったことよりも専門家や情報を多く持った限られた人たちが数人集まったほうが精度の高い結果が得られるのでは?」(CNET Networks Japan編集統括の西田隆一)、「Thinkの集合よりFeelの集合のほうが正しいというのはロジックがはっきりしなくて企業は採用しにくい」(鈴木氏)といった実直な意見が聞かれ、プレディクションの取締役谷川正剛氏は「当たる当たらないは別問題。参加者の意見をいかに集め、群衆の叡智を数値化することに意義がある」と説明した。

 最後に、モデレーターの岡田氏は「今どうして専門家でなく群衆と言われているのかは、確実だと思っていた方法が頼りにならなくなってきて、不確実性に対処していくには専門家では限界があることに気付いてきたからだろう」と分析する。しかしその一方で、誘導する側の意図が働けば、衆愚に陥る危険性があることも指摘し、パネルディスカッションをまとめた。

群衆の叡智サミット 2008 Springの風景

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