これは、あとから考えてもきわめて難しい状況だ。医師が患者の予後に関して楽観的で、当の幹部が表向き健康で元気なら、知らせなければならない理由があるだろうか。もちろん、米国のWoodrow Wilson元大統領の2期目の再現など誰も望まない。Wilson元大統領は当時、脳梗塞を発症してきわめて重い後遺症が残ったのだが、その事実は国民はおろか閣僚にも伏せられたのだ。
しかし、今問題にしているのはそういうことではない。Jobs氏が手術を受けるその日まで、Appleを完璧に取り仕切っていたことに異論はない。また、Jobs氏ががんの代替療法を探そうとしていたからといって、Jobs氏の会社を率いる能力が疑問視されるなどと言っているのでもない。Fortune誌によれば、Jobs氏はがん細胞が大きくなると初めの考えを撤回し、手術を受けることを選んだという。
企業のCEOには、たとえJobs氏ほど著名なCEOであっても、会社に影響を及ぼさないかぎり自分の健康状態を秘密にしておく権利がある。これは、企業の取締役会のためでもある。理由はなんであれ、どの時点でCEOの影響力を弱めるべきかを見極めるためにだ。当時、AppleもJobs氏も何ら問題に直面しなかったのは明らかだし、その後も非常にうまくやっている。それなら、Jobs氏が自分の病気をいつ知ったかということは本当に問題なのだろうか。
だが、Appleのこの強迫的なまでの秘密主義が、やがてふたたび同社につきまとうことになるに違いないと私は考える。AppleにとってJobs氏の存在は160億ドルの市場価値に等しいとも試算されており、Jobs氏の病気が再発するようなことがあれば、同社の株が打撃を受けるのは間違いないと見るアナリストもいる。Jobs氏の健康に関するうわさや憶測は2004年以来飛び交っており、Appleは、将来的にこのような問題には慎重のうえにも慎重に対処しなければならない。
この記事は海外CNET Networks発のニュースをシーネットネットワークスジャパン編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ
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