オフショア市場を切り開くマルチリンガルアウトソーシング

瀬井裕子(編集部)2007年11月08日 20時46分

 コスト削減を主な目的として、サービスやIT業務を国外の企業に委託するオフショアリング。マルチリンガルアウトソーシングは、この分野を専門的に手がけるベンチャーだ。

 サービスやITの分野で海外に業務委託を希望する企業が増えることを見越し、2004年11月に設立。オフショアリング一筋に取り組み、市場を開拓し続けてきた。

IT関連業務をすべて請け負う

 同社の事業は、IT関連の業務を海外に委託する受発注の管理。印刷会社やウェブ制作の会社などから、システム開発やHTMLのコーディング、画像加工、翻訳、不動産の間取り図の加工など、さまざまな業務を受注して海外のパートナー企業に発注する。業務が完了すると検品し、発注者への納品を行う。発注者が画面に必要事項とデータを入力すると、自動的に加工済みのデータを受け取れるシステムなども自社で開発したという。

 パートナー企業は、中国に33社、インドとベトナムの企業を合わせると約40社ある。それぞれ自国でウェブ制作や画像加工、図面の制作などを行っている企業だ。

 「パートナー企業は自国で同じ業務をしているので、日本企業からの受注でも少し手を加えるだけでクオリティを維持したまま安く請け負うことができます」(代表取締役の石倉良和氏)。

「アメリカの電話をインドで受ける」驚きから創業へ

 創業のヒントになったのは2003年ごろ、アメリカの保険会社のコールセンターがインドにあることを知った新鮮な驚きだった。「日本の労働人口は減少し続けている。コールセンターだけでなく、外国に業務を委託したいという要望は増えるのではないか」と思いついた。

 もともと石倉氏は「何かの分野で世界一になりたい」という野心を持っていた。「何か」をビジネスで実現しようと、大学卒業後に単身中国に渡って起業。1996年から8年間、エンターテインメントのコンテンツ流通を中心に中国に進出する日本企業のコンサルティングや不動産業を手がけ、事業を成功させた。しかし「一生かけてやっていきたいと思えなくなり」再スタートを決意。

 業務委託にビジネスチャンスを見出すと、日本企業が事業を委託するのに一番適切な国は中国ではないかと考え始めたという。人口が多く、日本語を話せる人も多い。また、同じ漢字の文化圏だ。それならば石倉氏の中国での8年間の事業経験を活かすことができ、それがアドバンテージになると考えた。

オフショアリングのリーディングカンパニーになる

 現在、製造業を中心とした多くの企業は、中国に生産拠点を移している。「大企業は現地に生産拠点を作ればいいと思います。でも拠点として稼働するまでには大変な時間とコストがかかります。中小企業には同じことはできない」。それらに細やかな作業内容まで対応できるのが同社の強みだ。

 最近では、携帯電話に配信する電子コミックのすべてのコマに着色する業務などを請け負った。受注する業務の種類は増え続けているのだという。

071109_multi.jpg同社の受付には、北京オリンピックの公式マスコットが飾られている。

 石倉氏は今、文化や言語、また個人の能力に依存せずに作業指示をできる仕組み作りを模索中だ。外国語を話せても、それが作業指示として通じるわけではないということを知り尽くしているからだ。文化や言語の壁を超え、指示内容を共通で認識できる「コマンド」を作っていきたいという。それらを作って「オフショアリングの発展に寄与し、この分野のリーディングカンパニーになりたい」と熱心な口調で語った。

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