次世代型広告マンの育成プロセス(2)

横山隆治(ADKインタラクティブCOO)2007年10月01日 12時53分

 従来の広告会社の職能や組織体制はマス広告枠を売るためにつくり上げられたと前回のこのコラムでも書いた。マーケティングコミュニケーションの変革期にあって、広告会社に求められるキャンペーンデザインは、こうした従来の分業制の枠をはみ出してきている。

 簡単にいうと、広告がマス広告枠の広告フォーマット上に規定のクリエイティブを載せて出稿すること(あとは販促プラン)だった時代から、マス広告を含む様々な生活者との接点(コミュニケーションチャネル)をプランニングしなければならなくなった。従って従来の広告会社の組織編成と職能はそのままでは通用しなくなっている。

 では、次世代型に対応するにはどういうことが必要になってくるだろうか。

 まずは、従来の組織編成の壁を打破して、役割の再編を図ることである。つまり極端にいうと、クリエイティブがメディア開発をしてみたり、プロモーションプランナーがコミュニケーションコンテンツを開発してみたりと、関わるプレイヤーが領域を超えて、それぞれがオーバーラップしてプランニング作業をしてみることから始められると思う。

 今私がやっているADKインタラクティブは、そんなオーバーラップを試みている。ここでは単なるインタラクティブプランニングだけでなく、インタラクティブをコアにした総合的なキャンペーンプランニングを、インタラクティブメディアを扱う者とプランナーおよびクリエイター集団とがユニットを組んで対応している。

 ここではメディアマンというより、コミュニケーションチャネルプランナーといわれるスキルとクリエイティブ(コミュニケーションコンテンツ)をプロデュースできるユニバーサルプランナーが混在して、それぞれの領域を、ぞれぞれが侵しつつプランニング業務をする。

 従来、ほとんどのメディアマンはクリエイティブと口を利かなくても仕事は成り立ったと思うが、「次世代広告コミュニケーション」という概念の作業では、そうはいかない。お互いの領域に踏み込んでいく必要がある。別にメディアマンだった人間が表現開発(クリエイティブ)してもいいし、クリエイターが新しいメディアづくりをしても良い。むしろそれを奨励する。

 しかしこれが、次世代型の組織と職能だと言っている訳ではない。まだまだ始まったばかり(始まってもいないかもしれない)で、今後様々な試行錯誤が続くであろうし、当面ひとつの形に収斂するということはないと思う。

 ただ、まずは従来型の組織概念を打破しないと、人にスキルが育たない。まず一部でも壊して、組織づくりの前に人づくりをすることが大事だ。こうしたトライをすると個々に次世代型対応を図り、スキルを獲得していく人材が出てくる。こうした人材がまた周辺の人材育成をすることになる。

 前回、「『次世代広告マンの育成』を考えると、ネット広告スキルをベースにした人材と、従来の広告マンでもコミュニケーション開発のスキルを持った人材との融合に大きなチャンスがあると思う」と書いた。このハイブリッドを成立させるためには、総合代理店側の人間が次世代対応の因子を十分もっている必要があるが、現状でそうしたスキルをもつ人材は総合広告会社にそうたくさんはいない。それも当然で、総合広告会社は企業としてそうした育成を全く行なってきていない。個々に個人的な能力と高い意識をもってそうしたスキルを獲得している者が一部いるということだ。

 だからこそ、前述のようにADKインタラクティブでは企業としてスキルの自己増殖を図っている。次世代対応人材を育成するための前段階といえるかもしれない。

 ところで、欧米ではインタラクティブエージェンシーの勢いがすごい。またインタラクティブエージェンシーの人たちは、トラディショナルなエージェンシーのなかにインタラクティブ部門があることを、「インタラクティブ部門があること自体がトラディショナル」と揶揄する。

 私も全く同感で、従来のマス広告枠を売るために出来ている組織体制にインタラクティブという部門を付け足すことがいかにナンセンスなことか。

 欧米で独立したインタラクティブエージェンシーが伸長するのも、彼らが全く新しいスキルセットをインタラクティブ対応の中で組み上げてきているからで、従来の広告会社のなかを変革しているからではない。(従来の会社を変革するという意味では、インタラクティブ対応ができない社員を大量にリストラして、スキルのある人材を採用する広告会社も多い。)

 つまり人材としては従来の広告会社のなかから対応力のある者を選抜したとしても、会社としては分離して独自の職能、組織、文化をつくる必要がある。

 広告会社は、その資本の傘下とするも、新しい企業体に広告業界全体の生き残りを託すべきである。生き残るべきなのは、広告ビジネスそのものであって、個々の会社の幹部や従業員ではない。

横山隆治
株式会社アサツーディ・ケイ
執行役員 ADKインタラクティブCOO

青山学院大学文学部英米文学科卒。1982年に株式会社旭通信社入社。営業職を経て、1996年同社サイバービジネス開発室室長。同年デジタルアドバタイジングコンソーシアム株式会社の設立に参画。設立時に同社代表取締役副社長に就任。黎明期にあったネット広告の普及、体系化、理論化に取り組む。JIAA(インターネット広告推進協議会)のガイドライン作成や新人研修テキストなどの多くを執筆するほか、著書多数。2006年7月からADKインタラクティブCOO兼デジタルアドバタイジングコンソーシアム株式会社取締役。「インターネット広告革命」(2005年宣伝会議)、「Mobile 2.0」(2006年インプレス)、「究極のターゲティング」(2006年宣伝会議)、「次世代広告コミュニケーション」(2007年翔泳社)など。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]