横山隆治(ADKインタラクティブCOO)
2007/09/18 12:00
今日、広告ビジネスが大きな変革期にあることを否定するものはいない。しかし、その変貌ぶりを具体的に予想できる者もこれまたいない。「インターネットの登場で、ビジネス環境は大きく変わるのだろうが、従来のビジネスモデルも生き残るのか、生き残るとするとどの程度なのか……。このままやっていけるものなら、せっかく創ったビジネスモデルをわざわざ自ら壊すこともないし……」これが、業界の素直な気持ちである。
さて、広告業界の特に年配の経営陣がこう考えるのは、ある意味仕方がないところである。しかしこれからまだ十年単位でこの業界で生きていこうと考えている若手中堅の広告マンにとっては、自らのスキルの変革を経ずして、広告マンとしての生き残りは難しいと考えるべきである。米国ではトラディショナルなエージェンシーがインタラクティブに対応できない従業員をリストラし、そうしたスキルを持った人材をどんどん雇用している。
また、今自らが所属する広告会社が、変革への対応力を持たずに、市場から退場せざるを得なくなっても、一広告マンとして、次世代広告マンへ、そのスキルを変革できていれば、何も怖くはない。広告ビジネスは「ヒト」のスキルにそのほとんどすべてを頼るサービス業だからである。
今、広告会社は大概マス広告枠を売るために何十年もかけて作り上げた職能と組織体制で編成されている。広告会社における分業制は、マス広告枠を売るためにできている。このフォーメーションとそれぞれの職能形成のプロセスのなかにいては、次世代型にスキルを変革するのはまず無理である。
逆にいうと、この仕組みの外で、広告ビジネスの実践で鍛えられているものの方が可能性は高い。その典型がネット広告会社の若い広告マンたちである。
彼らの仕事は実にたいへんである。まず媒体やビークル、広告フォーマットが多様で複雑である。またプランの要請から実施までのリードタイムが短い。それから広告の掲載だけで済むわけはなく、コンバージョンを含めた広告レスポンスデータが付いてまわる。ランディングページのパフォーマンスにも気を配り、常に効率論、ROIを意識する。こうした仕事によって彼らは実に鍛錬されている。
この複雑で例外的対応が極めて多い仕事で4〜5年鍛えられると、後は比較的「楽」だ。新卒でネット広告を叩き込まれた後に、マス広告やSP領域、クリエイティブ開発などを注入すると実に飲み込みがいいのだ。逆にマス広告で育った人に、インタラクティブ領域を注入するのはたいへん苦労する。
そもそも従来の広告会社は古い徒弟制のような風土もあって、10年選手でやっと一人前と評価されるようなところがあった。確立したメディアと確立したビジネスモデルの中ではそれでよかったのだろう、しかし、今の変革期にはそんな時間はない。次々に新しい要件が増える。どんどん新しいことを覚えていかなければならない。その意味ではベテランも新人もない。横一線である。
また、職能や組織も変革期では簡単に収斂しない。当面は試行錯誤が続く。
そんな環境での「次世代広告マンの育成」を考えると、ネット広告スキルをベースにした人材と、従来の広告マンでもコミュニケーション開発のスキルを持った人材との融合に大きなチャンスがあると思う。従来の広告文化で育った者と、ネット広告文化で育った者とで創るハイブリッド効果が次世代の広告を動かす源泉となると思う。
昨今、広告主の方も2極化している。つまり、説明が簡単なだけに、短期的なROIの追求だけでブランディングを含めた中長期のROI向上のプログラムが描けないダイレクトマーケターと、いまだにウェブやインタラクティブキャンペーンの本格導入を経営陣に説得できずにいるマスマーケターである。
同様にネットのマーケティングとこうした時代のコミュニケーションの双方を理解したプランナーも極めて数が少ない。広告サービスを提供する側に、こうした提案ができる者が少ないのだ。
広告ビジネスの将来もさることながら、広告主自身(企業マーケティング)のためにも業界をあげて人材育成に力を注ぐ時期が来ている。
青山学院大学文学部英米文学科卒。1982年に株式会社旭通信社入社。営業職を経て、1996年同社サイバービジネス開発室室長。同年デジタルアドバタイジングコンソーシアム株式会社の設立に参画。設立時に同社代表取締役副社長に就任。黎明期にあったネット広告の普及、体系化、理論化に取り組む。JIAA(インターネット広告推進協議会)のガイドライン作成や新人研修テキストなどの多くを執筆するほか、著書多数。2006年7月からADKインタラクティブCOO兼デジタルアドバタイジングコンソーシアム株式会社取締役。「インターネット広告革命」(2005年宣伝会議)、「Mobile 2.0」(2006年インプレス)、「究極のターゲティング」(2006年宣伝会議)、「次世代広告コミュニケーション」(2007年翔泳社)など。
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