独立行政法人科学技術振興機構(JST)および独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、9月12日から14日まで、産学連携のためのマッチングイベント「イノベーション・ジャパン2007-大学見本市」を開催した。基調講演には、脳科学者の茂木健一郎氏が登壇。「脳と人間」と題して、脳とイノベーションの関係について語った。
茂木氏はまず脳の仕組みについて、「脳はそもそも物事を正確に記憶するのが苦手だ」と語る。茂木氏によれば、そもそも人の脳は過去の事象を正確に記憶するようにできていないのだという。「生物が生きていくために正確さ自体にはあまり意味がない。というのも、過去に起きてしまったことは取り返しが付かないからだ。それよりも大切なのは、未来を生きるために必要な情報を蓄積することにある」と述べ、コンピュータとの差異を認めた上で、脳の働きを理解することの大切さを語った。
人は物事を記憶するときに、情報を編集、取捨選択し、あるときはニセの記憶やない記憶まで造り出すこともあるが、それこそが実は人間の「創造性」なのだという。これに対して、コンピュータが得意とするのは、すべてを正確に記憶することだ。しかしその一方で「イノベーションの起こるプロセスは、コンピュータのアーキテクチャでは扱えない」と、脳の働きとの違いを説明する。
さらに茂木氏は「我々は生き物だ。コンピュータになっては意味がない」と続ける。イノベーションにとって大切なのは脳の持つ“多様性”や“総合性”であると強調し、「イノベーションはコンビネーション。異なるものの間の結びつきを見た人がイノベーションを起こす。ひとつの専門にしか通じていない人にイノベーションはできない。大学の教養課程を減らそうなんてとんでもない」とした。また、イノベーションを生み出すもうひとつの重要なキーワードとして、“サスペナビリティー(持続可能性)”を挙げ、創造性をの基礎となる多様性を育む上で必須の要素だと語った。
さらに茂木氏は「よく創造性は若者だけの特権と言われるが、これは脳科学的には嘘になる」説明する。「本当のイノベーションはある程度の長さが必要なので、短期間では実現しない。持続可能なプラットフォームを作り多様性を育むというのがイノベーションの過程だ」と語り、イノベーションが年齢によってももたらされることを説明する。
しかしその一方で、年齢を重ねることで先入観や固定観念が形成され、創造性の成長が阻害されることもある。そのため、「“意欲のモチベーション”がポイント」とした。さらに、経営やマネージメントの観点では「ビジョンがあることも大切。そしてトップの抱くビジョンを形にして組織がいかに感応するか。そういう存在が今の日本に必要だ」と語った。
茂木氏は最後に「人間の脳は活動している限り、新しいものを生み出す能力がある。多様な世界を味わい、自分の脳の多様性を使い倒すことが大切」だと、イノベーションの基本は、個人の中にある多様性の組み合わせや、多様な文化との接触により生み出されることを改めて強調し、講演を締めくくった。
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