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匿名と実名の功罪--「ネットID」を識者が激論(後編) - (page 3)

鳴海淳義(編集部)2007年09月20日 13時57分
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必要なのは実名・匿名よりも、トレーサビリティの確保

 これまでの議論で、共通IDの仕組みについて、匿名で発言して裁判所の令状が出たら開示される「トレーサビリティの確保」を旨とする主張と、それに最初から見える形で実名公開を含む考えの2通りが出てきた。そこを整理しつつ、最後に各人が自分の考えをまとめた。

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小倉:ミニマムとしてはトレーサビリティがあればいいですが、実際に行動する倫理としては、特段の事情がない限りはしっかり実名を出して発言をしたほうがいいと思います。

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 ただ、これは倫理の問題だから強制する話じゃないのですが、現実に匿名の言論があることによって、被害者にはかなりの損害が発生していますから、これを誰に負担してもらうのか、そのときにどういう手続きが必要なのか、という方向で私は考えています。

 匿名の表現は大切であるから匿名発言者をトレースすることはけしからんということであれば、プロバイダやブログ事業者が賠償する形をとることによって、ネットワークコミュニティ全体でその損害を分担してあげる方法も一つは考えられるのだと思います。

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佐々木:小倉先生がおっしゃっているネットIDが、要するに法的な問題をクリアするためのトレーサビリティの担保としてのネットIDなら、僕は基本的には賛成。

 ただその場合、そこに倫理というか、実名至上主義みたいなものが入り込んでくると、絶対に反対が起きるし、僕自身も反対の立場なので、そこをいかにきちんと切り分けるか。

 ネットIDを導入する場合には、そこに倫理が入り込まないような仕組みをいかにきちんと確立して、ミニマムに留めるかどうかが重要になってくると思います。

 だから、それが担保されるのであればネットIDは本来作るべきだし、それを考えていかないと、ますますインターネットに対する批判が高まるばかりで、マスメディアとの補完関係そのものがうまく成り立たなくなるんじゃないかという危惧もある。

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伊知地:私もネットIDという考え方によって、犯罪を防ぐというのは大賛成です。

 名誉棄損の話が中心でしたが、やっぱりそういうものが排除できる仕組みがないとネットの社会的地位は上がっていかないと思いますが、匿名性に関して公表するかというところはまた別の話で、私は実名と匿名の両方必要だという考えを持っています。

 根本的には名を明かして発言するのが倫理的には正しいと思いますが、でもやっぱりパワハラというか、社会的な弱者がそういうことを言うのも怖いという人もたくさんいるので。そういう意味で、ネット社会をよりよくしていくという意味でも、名を明かすことは必要だし、また弱者のために匿名性も必要だと思います。

 ネットはもっと民主的なもので、例えば今ネットで選挙運動をやる話が進んでいますが、今のままだと厳しいなと思っています。IDの仕組みをしっかり用意してネットでの発言の地位をどんどん上げ、より民主的な社会を作っていきたい。

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高木:私は小倉先生とは違う目的で、共通IDはあったらいいと思います。

 これは、匿名なら匿名、実名なら実名、仮名なら仮名、あるいは匿名と実名という、いろいろな組み合わせのいろいろなコミュニティーがあっていいと思うんだけれども、今ないものは実名のみからなるようなコミュニティー。リアルワールドでは簡単に作っていることができていない。事業者横断的な共通の枠組みがあると、意義はあると思います。

 次に倫理的にどうかということについて言えば、匿名のメリットについて理解がまだ届いていない方々もいらっしゃるようなので、もうしばらくは広まったほうがいいと思います。もうしばらく匿名の自由さは多少害があっても認めていかないと、理解されないうちに潰されることが起きると思います。

◇◇◇

 ネットの共通IDが実現するとすれば、それはあくまでも表にユーザーの実名が出ないように匿名を維持した上で、何か問題が起きた場合にトレースできるミニマムな仕組みであるべき--今回の議論を総合するとこういうことだ。ネットの書き込みのトレーサビリティを確保することと、ユーザーに実名を名乗らせることはまた別問題である。

 ただ、ここで注意しなければならないのは、匿名を尊重するばかりにトレースの仕組みをも否定するのは、匿名の誹謗中傷によって苦しんでいる人たちにばかり、ネットの負の部分を背負わせていることになりかねないという点だ。

 これまでのように完全に匿名の状態で、トレーサビリティの仕組みもなしに、あらゆる情報がネット上に公開される現状は、伊地知氏の言うように「ネットの発言の地位向上を妨げる」ことに他ならないだろう。これはネットに関わる者すべてが、今後真剣に考えていかなければならない問題ではないだろうか。

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