7月26日、“世界初”と銘打ったECサイト横断検索ツール、「ショッピング・ファインダー(SF)」(アルファ版)がリリースされた。SFはガジェット(デスクトップ常駐型)なので、商品名を入力するなどの特別な操作を与える必要はない。例えば「楽天市場」で商品を閲覧すると、「Amazon.co.jp」や「Yahoo!ショッピング」といった複数のECサイトのAPIをSFが自動的に呼び出して(APIが公開されていないECサイトについてはクロールして)、同商品の価格やレビュー等を表示する、という仕組みになっている。
9月公開予定のベータ版では、検索結果をローカルに保存し、オフラインでも商品の比較検討が可能となる機能などが備わるという。また、対応ECサイトも、徐々に増やしていく予定だ。
簡単でユニークなこのツールを開発したのは、東京都千代田区に本社を構えるシンクー。“真空”に由来する社名を戴くこの会社は、同社開発のアプリケーションサーバー「ネットパブリッシャー(NP)」を利用して、B2B、B2C向けツールの開発、提供を主軸に事業展開するベンチャー企業だ。そして、同社を2005年6月に設立したのが、代表取締役社長を務める池田順一氏。日本のインターネット黎明期にITベンチャーを立ち上げたのを皮切りに、以降いくつもの事業を手がけてきた“歴戦の勇士”である。
池田氏は1964年生まれの43歳。1987年、大学で経済学を修めた後、Macintoshの販売会社で営業職に就く。入社時に思い描いていた人生設計では、3年間はサラリーマンを続け、その後独立して、何らかの事業を興す腹積もりだったという。
「会社の仕事が予想以上に面白くて、なかなか辞められなくなってしまいました。もちろん焦りはありましたよ。当時、インターネットはまだありませんでしたけど、『マルチメディアの可能性は花開く寸前』と感じていましたし、会社組織の中にいたのでは、劇場の幕が開いた瞬間の席の奪い合いに参加できないですからね」
そして、入社から7年が過ぎた1994年、満を持して独立。ネットワーキングカンパニー、ガリレオゼストを立ち上げる。池田氏が目をつけたのは、当時、マルチメディア分野において、デザインとシステムが別個に扱われていた点だ。近い将来、両者は確実に融合する、と踏んだ池田氏は、手始めにデザイナーとエンジニアが一緒に働ける環境作りのため、パソコン通信用モデムを数十台購入。それを知り合いのデザイナーとエンジニアに配り、在宅で仕事を受発注できる仕組み「ガリレオネット」を作った。
開始当初から好調だったが、インターネットがパソコン通信に取って代わるようになると、事業はさらに拡大し、富士通や読売新聞社といった大手企業のポータルサイト制作まで請け負うようになる。
さらに池田氏は、受注制作だけでは飽きたらず、1999年、知り合いのIT企業の社長3人を口説き、4社ジョイントベンチャーでPIMを設立。NTTドコモのi-modeサービス開始にあわせ、コンテンツ制作に乗り出す。NTTドコモとの提携には難航したが事業自体は軌道に乗り、翌年、ヤフーに事業売却。売却額は数十億円単位となった。
事業売却で多額の資金を手にした池田氏は、次の事業を模索する。そして2003年、「企業プロモーションは今後デジタルへと移行する」と予測し、デジタル化支援事業「デジマ」を立ち上げる。
「缶コーヒー添付のシールを5枚集めてハガキで送る、といったアナログなやり方を見直し、携帯電話を使ったキャンペーンを提案したんです。これなら、ユーザーはより手軽にキャンペーンに参加でき、企業もユーザーのメールアドレスなどの個人情報を収集できる。うまくいく、と思いました」
しかし、相手がナショナルクライアントともなれば、システムは常に万全の状態でなければならず、些細なミスも許されない。そのため、インフラ投資が徐々にかさみ、次第に経営を圧迫する。結局、インターネット広告業界3位(当時)のセプテーニに、事業を売却せねばならなくなった。
だが、池田氏は歩みを止めなかった。プロプライエタリのウインドウズ型と、オープンソースのリナックス型、双方の長所を採り入れた、中間型ミドルウェアの将来性に着目した池田氏は、その開発を行っていた三重野純氏(現・シンクー取締役)を説得し、2005年6月、シンクーを創設。このミドルウェアをネットパブリッシャー(NP)と命名した。
NPは、httpサーバーやDBサーバー等を実装したアプリケーションサーバーであり、ネットワーク機能を拡張するためのエンジンとしての利用や、個人PCに搭載することも可能。前述の通り、SFもNPを活用して開発されている。
「正直なところ、NPを開発した当初は、いろいろな可能性や将来性は感じつつも、具体的にどうやってマネタイズするかは見えていませんでした。SFを開発し、ここ1年でようやくはっきりしてきた感じですね」
現在、SFのビジネスモデルは、B2Cではアフィリエイト、B2Bでは導入店舗への月額課金という二本柱。テクノロジーの優位性を保持しつつ、サービスオリエンテッドな企業を目指し、一気に巻き返しをはかる算段だ。
シンクーの従業員の平均年齢は37歳。「今のベンチャーは20代が普通だから、そこからは外れますよね」と語る池田氏だが、そのバイタリティには驚かされるばかりだ。それにしても、池田氏を起業へと駆り立てる原動力とは何なのか。そう尋ねると、池田氏は小説『かもめのジョナサン』を引き合いに出して、こう語った。
「エサを取るために飛ぶ普通のかもめには、名前はなくていいんです。人間も同じで、食うために働くのであれば名無しでいい。もちろん、稼ぐことも重要ですけど、働くことを通して生きる意味を考えたり、自分の息子たちが楽しく暮らせる世の中を作る努力をするからこそ、私は池田順一でいられる。私にとって起業は、生きる意味そのものなんですね。だから、失敗しても何度でも起業しますよ」
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