放送業界には、音楽業界におけるJASRAC(日本音楽著作権協会)に当たる団体は存在しない。2006年10月のファイル削除の要請やHurley氏との対話は、いずれもNHK、民放キー局などからなる23団体・事業者が共同で行ってきたが、削除要請については基本的に各放送事業者が個別に行っている(日本民間放送連盟は参加こそしているが、主導的な立場はとっていない)。
2007年1月、社団法人デジタル放送推進協会(Dpa)の会員各社による「放送コンテンツ適正流通推進連絡会」が設立され、ネット上の不正コンテンツ流通を組織的に取り締まる動きを見せ始めた。だが、現時点での主な対象はオークションサイトにおける海賊版の流通であり、無料動画サイトまでは手が回らないのだという。
当然、各局対応となれば大幅に人員を割くことはできず「数人の専門スタッフが監視しているほか、局内外からの情報を受けて削除要請を出している」(民放キー局)のが現状。こうした脆弱な体制の中で、YouTubeに対しては「技術的対応を含めた抜本的な解決策」を求める、それが実現する可能性は低い。
さらには、削除したはずの映像を閲覧できるという「Delutube」なるサービスも登場。Delutubeについて放送事業者側は、サーバ内コンテンツの扱いを「視聴不可」ではなく「完全削除」するようYouTube側に要請済みとのこと。Delutubeそのものには直接的な抗議活動は行っておらず、またYouTube内部との関係性についても「詳細は不明だが、直接的な関係はないのでは」(民放キー局担当者)とし、あくまでもYouTubeの削除対応事態に問題があるとした。
一方、今後の展開について放送事業者は、引き続き削除要請と技術的対応要請を求めつつも「まずはViacom訴訟の結論を注視する」という意見が多い。TVメディアを積極的に活用した「違法行為はやめましょう」の啓蒙活動、著作権を一括管理し、かつ専門でYouTubeなどに対抗する「放送版JASRAC」の設立などは一切予定されておらず、訴訟の影響によるYouTubeの「破滅」を期待しているのだという。
その上で、知的財産権を報酬請求権に格下げし、コンテンツ流通の促進を図ろうとする経済産業省および文化庁の動きには強く反発している。NHKによるネット配信事業への反発も然りだ。
一見すると「鳴かぬなら、鳴くまで待とう」という姿勢に感じられる。しかし、業界全体の問題として捉えつつも、個別の担当者レベルが頭を悩ませ、かつ粛々と削除要請しながら相手側の自滅待ちという戦略からは、ネット配信を長期的課題として「永続的に取り組もう」とする姿勢は感じられない。むしろ、ビジネスとしてのネット配信をも切り捨てた「殺してしまえ」の方向に向かっている感がある。
YouTubeの存在は、放送事業者にとって罪でしかなかったのか──。
某局格闘技番組における動画サイトの活躍を例にとれば、いわゆる「垂れ流し」であるがゆえに緩んできた放送事業者の手綱を引き締める役割を果たした側面もある。もちろん、放送局側は「そもそも違法なコンテンツ流通であり、それが放送事業においていい効果をもたらすという議論は成り立たない」とにべもない。確かに、著作権侵害は大きな問題ではあるが、ここで「放送・通信融合時代におけるひとつの効果と可能性」としての評価もする、度量の大きさを見せることも求められているのではなかろうか。
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