西に乗っ取られたサーバがあると聞けば密かに飛んで行き奪還作業をこなし、東に攻撃を受けているサーバがると聞けば、すかさず電話で指示を飛ばし駆けつける。そんな傭兵の生活では自前の武器を用意している暇はない。差し出されたキーボードを受け取るやviで設定ファイルを修正し、よもやviが使えないとなればedですら使いこなす。配線の不良だと気付けば、そこいらに転がっている文房具と工具を手に床に潜って配線工事を行う。そう、そこにあるものをすべて武器とするのだ。
だがしかし作戦の遂行には正確な時間と連絡手段が必要だ。そこで愛用しているのは電波ソーラーのG-Shockとトランシーバーだ。携帯電話などダイヤルする手間がまどろっこしい。ボタンを押せば即喋れるトランシーバーは重宝する。
……と、まあ冗談はさておき。どうも高橋です。普段はどちらかというと固い文章ばかり書いているために、お堅いライターと思われがちなのですが、本人はいたって不真面目です。ネタ記事を書かせてくれと言ってもたいてい、担当者に却下される悲しい日々です。
トランシーバーは冗談ではなく、写真のものは実際に(たまにですが)使っています。もちろん観光に行って連絡用というわけではなく、配線の敷設作業や肉声が届かない環境で意思疎通をはかりながら作業を行う場合に重宝します。今では携帯電話を使う人が多いようですが、コスト面でいうとトランシーバーに適うものはないでしょう。特に、同じチャンネルにあわせておけば同報が可能なので複数人での作業には最適です。通常の電波を使うのでもちろん、情報漏洩には注意しなくてはなりませんが。
実際のところ依頼を受けてすっ飛んで行くような場合には、せいぜいノートパソコンを抱えて行く程度です。セキュリティの観点から現場で自前の道具が使わせてもらえない事がよくあるので、先方のPCなりコンソール作業というのは良くあることです。英語キーボードになじんでいる体は日本語キーボードにしばしば戸惑いますが。
今現在、常に身に付けているものといえばマグライト程度でしょうか。これはキーホルダーとして使用しているのですが、単四電池1個で結構明るいので役に立ちます。暗闇で鍵穴を探すというわけではなく、サーバーラックの裏やパソコンの裏でコネクタに書かれた文字を読む場合など、結構活躍する場があります。
おかげさまで最近は、こういった傭兵的仕事はすっかり減り、どちらかといえばAsterisk(*1)関連の講演依頼などが多くなっておりノートパソコンはプレゼン用として活用中です。ちょっと欲しいのはポータブルのプロジェクターなのですが、さすがにそこまで用意すると元が取れないんじゃないかと不安ですが。
(*1) オープンソースのPBXソフトウェア。IP-PBXの機能ももつため最近、注目度が急上昇している。
そんな高橋ですが、どうしてもこれだけは捨てられないというものがあります。それは『HPの電卓』。ご存知の方はニヤリとしてください。ご存知ない方のために説明しておくと、HPとはあのヒューレット・パッカード社のことで、そのHPが以前は電卓メーカーとしても有名だったのです。今やHPの電卓事業は大幅に縮小され細々とやっている程度で、かつてのHPの名残をほとんど残さない残念な機種ばかりになてしまいました。一部の金融系電卓においては、今でも圧倒的なシェアを持つそうで、特定機種だけはまだ続けているようですが。
筆者が未だに愛用しているのがHP-32S IIという電卓で、比較的薄型の科学技術計算向けのプログラム電卓と呼ばれるものです。IIという型番が示している通り、大ヒットしたHP-32S(1986年)の後継機にあたるモデルで1991年~2002年まで売られていたモデルです。
筆者のHP電卓歴は古く、初めて買ったモデルはHP-19Cでこれは電卓という名前そのままに『卓上』なモデルで今だにちゃんと動作しますが、やはり普段使いにはちょっと難ありということで、その後HP-32Sを使っていたのですが、残念なことにHP-32Sが壊れてしまい急遽次の機種を探そうとしたところ、何とHPが電卓事業を大幅縮小した後でHP電卓にはとんでもないプレミア価格がついて売られているという悲惨な状況。そんな中、全世界を探しまわりドイツから入手したのがこのHP-32S IIというわけです。一生分のストックという意味でもう1台、新品未開封のまま保存してあります。お前の一生はそんなに短いのか?と言われそうですがHP電卓の寿命が長いのです。10年や20年は平気で使えてしまうのが凄いところで、お気に入りの機種を使い続けていたら、いつの間にやらHPが電卓事業を縮小してたというわけなのです。
残念なことにHP-32S IIは優れた実用ツールであるにもかかわらず、現在も異常なプレミア価格で取引されているという悲しい現実があります。
HPの電卓の良いところといえばファンは必ず"RPN"を挙げるでしょう。RPNとは日本語では「逆ポーランド記法」と呼ばれており、電卓で計算をする場合の入力のしかたのひとつと考えてもらえばいいでしょう。電卓の入力方法なんて数字押して演算子押して、数字押してイコールしかないというのは大きな間違いで、今の電卓の入力方法の主流がそれであって何もひとつではないのです。
RPNにおいては入力は次のように行います。
1 [ENTER] 1 [+]何のことやらと思われるかもしれませんが、先ほどの写真を良く見てください。しっかり[ENTER]という大きなキーが写っているはずです。この入力で計算をするのがRPNと呼ばれるもので、演算子を後置するこの入力の方が計算を効率的に行えるという特徴を持っています。RPNの何が優れているのかはインターネットを検索して調べてもらえば、ぞろぞろと出てくるでしょう。
RPNという計算方法はネイティブなコンピュータ屋にとっては実は自然なのです。レジスタやスタックに値を置いてから演算を実行するというのはコンピュータでは当たり前のことだからです。
もちろん、32S IIが優れているのはこの点だけではなく、たとえばネットワークやプログラミングでよく使う基数変換(2進、10進、16進など)が簡単に行えるなど、まさにエンジニア向けの機能を多数備えています。
日本は優秀な電卓を作った国として誰もが認識しているかもしれませんが、エンジニア向けの優秀な電卓を作っていたのは実はHPだったのです。しかしながら電卓は低価格化・量産化という消耗戦を各社が繰り広げ、後に『電卓戦争』と呼ばれるようになります。戦争が終わってみると、そこには誰も勝者はおらず、ただ焼け野原だけが広がっていたというものでした。かつては日本の大手家電メーカーですら電卓を製品として販売していたのです。
残念なことに科学技術計算向けのHP電卓はもはやOEMの一部機種しか売られておらず、古き良き伝統を持つHP電卓は今後も新機種投入はありそうもない状況です。オークションなどで中古を入手するという手もあるのですが、コレクターが存在するために高値で取引されておいるために実用品として購入するには価格が高すぎます。
幸いにも筆者は何とか駆け込みで2台を確保したので、あとは大切に使い続ければ困ることはないと思いますが、このような優れた道具が世の中から消えていこうとしているのは実に惜しいことです。
某国内大手パソコン通信会社を経て独立。フリーランスのライター兼エンジニアとして活動。Linuxなどサーバ関連の著書が多いが基本的にもの造りが好きでPIC本なども著書にある。現在はVoIP関連、とりわけオープンソースのPBXであるAsterisk関連での活動が盛ん。なぜかたまにカメラマンや取材記者もやっている(プロフィール写真撮影:tomo)。
【使用製品】型番:HP 32S II
【お気に入り度合い】これがなければ計算はできません。お金の計算ですら家でならこれを使っています。もちろん普通の電卓が使えないというわけではありませんが、RPNで計算することは自然で楽なのです。
【次回執筆者】野本響子さん
【次回の執筆者にひとこと】知る人ぞ知る「女スタパ斉藤」こと野本さん。業界の一部では有名な編集者さんです。彼女の物欲具合には私も驚かされます。最近では少しおとなしくなってデジタルものを買いまくるのは少なくなったとか。
【バトンRoundUp】START第1回:澤村 信氏(カナ入力派の必須アイテムとは?) →第2回:朽木 海氏(ウォークマンとケータイをまとめてくれる救世主とは?) →第3回:大和 哲氏(ケータイマニアのためのフルキーボードとは) 第4回:西川善司(トライゼット)氏(飛行機の友、安眠の友、ノイズキャンセリングヘッドフォン) →第5回:平澤 寿康氏(出張に欠かせない超小型無線LANルータ) →第6回:石井英男氏(いつでもどこでもインターネット接続が可能なPHS通信アダプタ) →第7回:大島 篤氏(電卓とデジタル時計の秘密) →第8回:荻窪 圭氏(自転車とGPSがあればどこにでもいけます) →第9回:田中裕子(Yuko Tanaka)氏(これでクラシックもOK!究極のカナル型イヤフォン) →第10回:佐橋慶信氏(ビジュアル・ブックマークの実践方法とは?) →第11回:清水隆夫氏(プロ御用達の業務用GPSデジタルカメラ)
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