企業の成長は、決して経営者1人の努力だけでは無理だろう。その過程では、資金はもとより経営に関するアドバイスなどさまざまな支援が必要になる。こうした役割を担うひとつがベンチャーキャピタル(VC)だが、経営者とVCはどのようにして出会い、具体的にどういう関係を構築していくのか、そして人物像は。
IBM Venture Capital Group日本担当の勝屋久氏が紹介する形式で、VCと経営者の両者に対談してリアルにお伝えします。今回は東京大学エッジキャピタル(UTEC)代表取締役社長・マネージングパートナーの郷治友孝氏とシリウステクノロジーズ代表取締役社長の宮澤弦氏の登場です。
勝屋:今回はWeb 2.0ベンチャー企業で最も注目されている会社のひとつ、シリウステクノロジーズの宮澤さんと、東京大学エッジキャピタルの郷治さんにお話を伺います。まず、それぞれの会社のご紹介をお願い致します。
郷治:東大エッジキャピタルができたのは2004年4月、東京大学を含む国立大学の法人化があった時期です。それまで東京大学は文部科学省という役所の支部という位置づけだったのですが、法人化にあたって産学連携を推進するようなベンチャーキャピタルを作りたいということで設立されました。その後、機関投資家から資金を集め、現在は83億円のファンドを運用しています。
投資コンセプトは大きく分けて2つあります。ひとつは東大での研究開発を活かすようなベンチャー企業に対する投資、もうひとつは東大の人材が設立したベンチャー企業を支援する投資です。ですから宮澤さんのシリウステクノロジーズは後者の代表になりますね。
宮澤:シリウステクノロジーズは主にモバイルインターネットの世界で他社が手がけない新しい価値のあることに積極的に挑戦する会社です。その貪欲な姿勢が大企業にかなり評価を頂いており、大企業とのアライアンスがベンチャーの中ではたぐいまれなほど多い会社です。電通、リクルート、NTTグループ、携帯電話事業者各社などとアライアンスを組んでいます。
勝屋:ベンチャー企業が大企業とアライアンスを進める場合、最初の1社と組むのが大変ではありませんでしたか。
宮澤:最初はまず帝国データバンクの与信で落ちるものなんです。それを乗り越えて行くための方法のひとつは、大企業の中にこちらを本当に信頼して僕らの味方として中で動いてくれる人がいることです。「あの会社は本当にいい会社だ」と上司に掛け合ってくれる人がいるということですね。どこかで知り合った時にこちらの熱意を伝えて、それに共感してくれると、難しい稟議(りんぎ)を一生懸命に社内調整をして通してくれたりするんですよ。
実際、そういう人の何人かは今、大企業を辞めて当社で働いています。それくらい、こちらがやろうとしていることを本気で分かってくれる人を作ることが大事ですね。
もうひとつは僕ら自身が尖っていることです。「こういう新しいことをやっている会社だから大企業としても付き合うメリットがある」ということを明確にしておかないと、相手を説得できませんから。当社は運良くその2つが叶って大企業ともお付き合いができました。
勝屋:1社決まると次のアライアンスは楽になるものですか。
宮澤:そうなんですが、それには理由があって、ベンチャー側も一度経験すると成長するからなんです。やっぱり大企業は品質管理などが徹底されているので、甘いベンチャーのやり方では「共同事業にするには品質が耐えない」と何度も改善を要求されるんです。それを乗り越えていくと会社としても成長していって、社員の意識も高くなるんですね。
2社目からはこちらも最初から高い意識でやりますし、結果として先方ともやりやすくなるということなんです。ですからベンチャーは大企業に育ててもらっているという部分もあります。弊社も今まで沢山怒られましたが、そのお陰で今があるのでとても感謝しています。
勝屋:大企業とアライアンスを組むような時、郷治さんはどんな立場でいらっしゃったんですか。
郷治:最初にシリウステクノロジーズとアライアンスを組んだ大企業はリクルートさんだったと思うんですが、当社経由で紹介しました。私たちが大企業に「こういう良い会社があります」と情熱を持って説明していると、たとえ与信が通らないようなベンチャー企業であっても大企業に会ってもらえることがあります。そういう努力は継続的に行っており、私も常日頃から、仕事の機会だけでなく飲み会の席などでも、シリウステクノロジーズの話をいたるところで情熱的にしています。
私たちがそもそもなぜ大企業と付き合いがあるかというと、私たちのファンドに出資していただいている企業がたくさんあるからというのが大きいです。また、直接出資していなくても、大手金融機関経由や大学経由の人脈を通して付き合いがあります。そういう企業と常に情報交換をしていますので、「こういう面白い会社がある」という話が出れば、「だったらこんな大企業の担当セクションを知ってるよ」という風につながっていくんですね。
勝屋:当然、東大エッジキャピタルのファンドに投資している人が求めているのはリターン(投資益)ですよね。
郷治:もちろんそうです。ただ、金融機関は金銭的なリターンを明確に求めているのに対して、事業会社の場合は何か新しいビジネスの芽がないかという視点でも見ています。さきほどのリクルートさんは当社のファンドの出資者ではないんですが、知り合いの知り合いというようにたどっていくとつながっているんですね。
1996年東京大学法学部卒業、2003年スタンフォード大学経営学修士課程(MBA)修了。1996年通商産業省(現経済産業省)入省後、ジャフコ派遣を経て、1997年から1998年にかけて「投資事業有限責任組合契約に関する法律(投資事業有限責任組合法)」の制定に取り組む。現在、日本のベンチャーキャピタルファンドの大半はこの法律に基づき設立されている。このほか、中小企業技術革新制度(SBIR)、「著作権等管理事業法」(文化庁にて)、「信託業法」(金融庁にて)等の立法化を担当。2004年4月東京大学エッジキャピタル(UTEC)設立に際し退官、パートナーに就き、UTEC一号投資事業有限責任組合の設立を担当。2005年、テラ、アドバンスト・ソフトマテリアルズ、シリウステクノロジーズへのリード投資実行に際しそれぞれの取締役に就任。2006年UTEC代表取締役社長に就任。日本スタンフォード協会理事。
趣味: 水泳、銭湯
投資先:テラ(現取締役)、アドバンスト・ソフトマテリアルズ(現取締役)、シリウステクノロジーズ(現取締役)、サスライト、日本医療データセンター、ゼファー、テスト・リサーチ・ラボラトリーズなど。
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