それに対して、デコメールは、ケータイメールの特徴を活かしている。ユーザーは、ケータイメールを利用する際、PCの電子メールに比べて迷惑メール、スパムメールに非常に敏感になっており、そのクレームの矛先はキャリアに向けられることになる。そのためキャリアは慎重かつ徹底的に迷惑メールへの対策を実施している。それがケータイメールの高い開封率を引き起こし、時には通話以上のコミュニケーション手段として確立している。デコメールはそうしたユーザー心理をとらえ、絵文字での表現の次に感情を伝える手段として、10〜20代に爆発的に普及した。ドコモのコンテンツビジネスにおいては、最近最も成功した事例であろう。
3つ目のカスタマイズコンテンツとは、ドコモのメロディコール、auの待ちうたとFlashのコンテンツである。メロディコールや待ちうたとは、俗に言う「コールバックトーンサービス」である。このサービスに登録しておくと、電話をかけている側に、あらかじめ電話を受ける側が設定した楽曲を、電話を取るまでの間に流すことができる。ニッチなサービスかもしれないが、音楽配信するという観点で見れば、「電話を相手がとるまでに聞く音」もケータイならではの利用シーンである。音楽だけにとどまらず、通話相手(設定側)の個性にあったメッセージが流れたりと着信メロディと同じようなパーソナライズを付加するためには非常におもしろいコンテンツである。
もう1つは、ケータイブラウザがFlashに対応したことによる各携帯電話メニューや待受画像のFlash対応化である。電池残量や、アンテナ感度、時間によってケータイのアイコンやメニューが表現を可変することができ、よりパーソナライズ化が向上している。NTTドコモの903シリーズからは、メニューアイコンや着信音などを一括で変更できる「きせかえツール」が導入され、1つ1つ待受画像やメニューアイコンを設定する煩雑さも改善された。
こうしたヒットコンテンツを次々と生み出していくには、課題が存在する。この1年で大きな課題として顕在化した「課金システム」と「プロモーション」に焦点をあててみたい。モバイルコンテンツの課金システムには、通話料や通信料とともにコンテンツ利用料もまとめて回収するという「公式サイトのビジネスモデル」を確立させた、キャリア主導の回収代行システムが存在する。
モバイルコンテンツはこの課金システムから脱却できていないため、会員ユーザーを多く保有するコンテンツプロバイダーはMNPによるユーザーのキャリア移動に戦々恐々としていた。キャリアを変更されると登録していたコンテンツサービスが自動的に退会となってしまうからである。
また、プロモーションにおいても、ドコモがGoogleをはじめ複数検索サービスに対応したほか、auのGoogle検索、ソフトバンクのYahoo!検索導入により、これまでのツリー型メニューは検索型メニューに変更され、メニューアクセスに頼ったプロモーション戦略は崩れてしまった。モバイルコンテンツビジネスにおけるモバイルSEO対策が急浮上したことになる。
ほかにも、開発コストの上昇が挙げられる。上述したようなコンテンツジャンルの拡充には、制作・開発コストの拡大は避けられない。キャリアのユーザー獲得競争激化のタイミングともあいまって、コンテンツ制作にはキャリアから提供される独自のエンコードツールが必要になり、次々に投入される携帯電話機種の適用化、デバック工数の上昇など、サービスを提供することによる新たな収益と、コスト投下のバランスに慎重になる必要性が生じている。
こうした課題からモバイルコンテンツを投入する企業は、コンテンツの価値だけでなく開発、制作、運用、プロモーションなど統合的な力を持つ企業のみが生き残っていくことは間違いない。
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