この「究極」を放送事業者が通信サービスとして実践するためには、今後放送されるすべての映像について、ネット配信を前提とした権利処理を行う必要がある。もちろん、それは非常に困難極まりない。
テレビの特長の一つは「即時性」、つまりリアルタイムにある。前述した一件も含め、大抵のハプニングは生放送中の出来事。こうした映像に対する著作権処理を権利者(タレントなど)が認めるとは考えにくく、出演そのものを嫌うようなケースが続出してしまうだろう。制作そのものに差し障りが出るようでは、コンテンツ産業としてのテレビ局の価値が激減してしまう。
これはYouTube問題も同様。動画のアップを消極的にでも容認していると、権利者サイドから突き上げを食らうことになる。結果的に「出演見合わせ」ということになったらたまらないので、削除を求めるしかない。「3日間で300万ページビュー」というオイシイ数値を稼ぎ、結果的にそれが番組自体の大々的な告知につながったとしても、やはり削除を求めなければならない理由は、そこにある。
ちなみに「権利者」とはタレントや有名人、作家、作曲家らのみを示す言葉ではない。ニュース映像などに登場する一般の方にも、立派に「権利」は存在する。
一般の方が「放送によって権利を侵害された」と感じた場合、基本的には放送倫理・番組向上機構(BPO)が所定の手続きをもって対処することになるが、果たして、YouTubeの場合はどうなるのか。
例えば「ニュース映像としてテレビに出ることは了承したが、ネット配信されることは認めていない」という申し立てがあった場合。このケースについては「各放送事業者か、インターネットプロバイダー側の判断となる」(BPO)とのこと。
さらに複雑なケースを想定する。「ネット配信されるくらいなら、テレビ出演も了承しなかった」と申し立てられた場合はどうなるのか。「微妙なケースです。基本的には前ケースと同じものとなりますが、近い将来に向けた課題となるでしょう」(同)とのこと。BPOにとっては、今のところ「対岸の火事」といったところのようだ。
一方で、コンテンツ配信に伴う著作権処理のルールは近い将来、作業が軽減される見通しがある。
根拠となっているのは、地上デジタル放送難視聴エリアカバーに対するIP網の活用策。2011年7月までに地上アナログ放送を終了させるためには、現在、テレビが視聴できるすべてのエリアでデジタル放送が見られるように整備する必要がある。ところが、現在の見通しから2011年時点までに電波およびケーブルテレビによってカバーしきれないエリアは、数%ながら残る見通しなのだ。そのため、そうした地域についてIP網を活用し、テレビ放送を再送信しようという動きがある。
形はどうあれ、伝送路が通信系であれば、現行ルール上において相応の著作権処理が必要となる。よって、そうなる前にルールを緩和しておこう、ということなのだ。
しかし、これはあくまで「地上波再送信」を前提とした内容であり、VODを含む通信系への動画配信すべてに適用されるとは限らない。従って、YouTube問題とは直結しない制度上の問題として整理しておく方が妥当だ。
これだけをもってこうした制度上の問題すべてを語ることはできないが、YouTube問題に関連して理想的な「放送・通信問題」が実現できるか否かを左右するのは、制度上の問題がその核心ではないだろう。やはり、権利者との関係性が最重要課題と捉えておかなければならない。
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