9月27日から28日の2日間に渡り、デジタルガレージの主催で、ウェブ業界の先駆者達が一堂に会し、インターネット技術や社会の未来について語る「NEW CONTEXT CONFERENCE 2006」が開催された。27日には「TV 2.0への取り組み」をテーマにしたパネルディスカッションが開催され、通信と放送の新しい関係の実現に取り組む放送業界のキーマン達が集まった。
セッションに登壇したのは、東京メトロポリタンテレビジョン 取締役 編成局長の本間雅之氏、フジテレビラボLLC合同会社 代表の時澤正氏、プレゼントキャスト バイスプレジデントの上野敦史氏、そして事前には告知されていなかった元総務大臣秘書官の岸博幸氏が加わった。モデレーターを務めたのは、デジタルガレージ 取締役の小尾一介氏。Web 2.0によってこれからの放送がどのように変わっていくのか、放送と通信の融合に向けた各社の取り組み、現状での問題点などが語られた。
セッションではまず、各社が行っている放送に関する新しい取り組みが紹介された。東京メトロポリタンテレビジョンの本間氏は、テレビ番組「BlogTV」のネット配信により、通信と放送の融合について世の中の関心が大きいことをあらためて実感したという。プレゼントキャストの上野氏は、放送と通信をどう連携していくかが、放送業界の中でも話題になっていることを指摘し、その回答のひとつとして、地上波テレビを軸としたDOGATCH(ドガッチ)を提供したと語った。
ユーザーがインターネット上で簡単に動画を発信し共有できる「ワッチミー!TV」を運営しているフジテレビラボの時澤氏は、放送と通信の関係がここ数年以内にどうなるかわからないため、テレビ局がネットに対するスタンスを決めかねていると指摘する。フジテレビはフジテレビラボを実験室的な存在と位置づけており、ネットをいかに利用すべきか探っている段階のようだ。
元総務大臣秘書官の岸氏は、総務省で行われている「通信と放送の在り方に関する懇談会」について、これまでの経緯を明らかにし、6月に開催された懇談会のとりまとめをした観点から、製作側の現状と今後の展開を語った。
岸氏は5年前、通信と放送が縦割りになっている現行法のおかしさを指摘したが、「民放局の抵抗により変革には至らなかった」と説明する。今年6月に開催された懇談会でもさまざまな抵抗はあったが、一歩前進することができたと語った。日本民間放送連盟(民放連)は体質が古く、未だに通信と放送の融合に反対の姿勢を見せているという。セッションで岸氏は次の総務大臣である菅氏に対し、「これまで1年間やってきた方向性を確実に引き継いでいく」と断言し、「制度面で融合を進めて民間をもっと自由にしなければならない」と強く訴えた。
「世の中の動向の方が先に行ってしまい、通信と放送の法律を分けていくのが難しくなっている。そのため、日本のIT業界は、ビジネス内容では世界的に見て遅れている部分があります。どんどん加速させて、融合の新しいモデルが出るようしていくべきです」(岸氏)
次に、モデレーターの小尾氏から「Web 2.0の流れは、放送業界にとって追い風か向かい風か」という質問がパネラーに投げかけられた。それに対し本間氏は、放送業界は斜陽産業に入ってきたのではないかと答え、広告費が伸び悩みが番組編成に影響を与えていることを指摘した。
「ネットに価値を見出せば、広告費はウェブに流れていくでしょう。その結果、良い番組はテレビからウェブに移行していく。我々もどんどん入っていかなければ、基盤がなくなっていく恐れがある。危機感は常に感じています」(本間氏)
上野氏はWeb 2.0を追い風と捉え、古いメディアであるテレビとどう連携していくかをうまく見つけていくかが鍵になると見ている。一方、時澤氏は、今の放送で満足しているか、最終的にどんな放送文化を求めるかで、風向きは変わってくると語った。岸氏も時澤氏と同様、気持ち次第で追い風になるという考えを述べた。
「放送産業はもっと高い成長ができるはず。変化できるかチャンスになっている。音楽業界は何もやらなかった。その結果、ネットで音楽配信が普及し、CDの売り上げが落ちていった。映像の世界で同じことが起きないとはいえません。技術の変化に対応しなければ、放送業界も落ちていくでしょう。それを踏まえて早く変わっていけば、逆にチャンスになります」(岸氏)
ネット上には個人が製作しているコンテンツが無数にある。ディスカッションでは、その対応をどうするかという問題も取り上げられた。パネラーは共通意見として、無名の無限の可能性を実現できるCGMを喜ばしいことと捉えていた。しかし、製作は素人でもできるが、編集はプロの仕事であることを指摘。著作権問題などの点でユーザーのリテラシー向上の必要性を訴えるとともに、自由度の高いインターネットという手段を規制だらけのものにしてしまうのではないかという危惧についても指摘した。ワッチミー!TVもその裏側では、人力ですべての動画に対してのチェックを行っているという。
「Web 2.0にアナログをプラスしたのがワッチミー!TV。アナログな作業があるからこそ、表現の自由と責任を自覚した豊かな映像世界を作っていけるのです」(時澤氏)
サービス提供者、ユーザーが一緒になってリテラシーを考えていくことも、通信と放送の融合を進める鍵のひとつであるようだ。
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