ゲーム制作の開発資金をプロジェクト単位で募る仕組み「プロジェクトファイナンス」を導入したSignalTalk Corporation。
ハリウッドでは映画制作の資金調達の手段として一般的に使われている仕組みだが、国内で、しかもゲームの制作に導入するのは非常に珍しい。SignalTalkは1年間でインターネット広告代理店のオプトやゲーム開発企業のケイブなどから5000万円を調達し、オンライン麻雀ゲーム「Maru-jan」を開発。2004年4月に有料サービスを開始し、2006年9月には会員数が10万人を突破した。
プロジェクトファイナンスを日本のゲーム制作に導入しようと考えた意図はどこにあったのか。また、日本ではまだ珍しい仕組みをどのように出資者に納得させ、プロジェクトを成功に導いたのだろうか。創業者で代表取締役社長代表取締役社長を務める栢孝文(かや たかふみ)氏に聞いた。
少し昔の話から始めますね。1999年、前々職であるセガ・エンタープライゼス(現セガ)のゲーム開発者としてアクションパズルゲームの「チューチューロケット!」というゲームを手がけました。社会人1年目の作品でしたが、幸いにも多くのゲーム雑誌に取り上げていただきました。初めのころは嬉しい気持ちが先に立っていたのですが、しばらく経つと疑問に思えてきたんです。
「なぜ、こんなに取り上げられるんだろう?」
ゲーム会社は新しいゲームを作って世の中に送り出していくのが仕事です。仕事として当たり前のことをやっているのに、注目されたのはなぜなんだろう。月に何十本と出ているゲームの中からチューチューロケット!が注目されたのはどうしてなんだろう。言ってみれば、変なネコとネズミが走り回るパズルゲームというだけなのに。
いろいろ考えてみて、自分の中で出した結論は、チューチューロケット!のように新しいアイデアを持ったゲームが珍しかったから、ということでした。ちょうどこの頃、ゲーム業界全体に、3D技術が本格導入されてきたんですね。それにともない、ゲーム開発には莫大なコストがかかるようになってきました。ファミリーコンピュータの頃は、1タイトルあたり1000万円程度だった開発費が、億の単位になることも珍しくない状態になってきた。
大きなお金が動いている以上、失敗するわけにはいかないという事で、売れそうなものだけ開発するという流れがゲーム開発現場に生まれてきたんです。簡単に言えば、続編主義、大作主義になってきたということですね。そんな状況の中だからこそ、新しいアイデアで作られたゲーム、チューチューロケット!の登場が特別な事件のように注目された。
そこで思ったんです。新しいアイデアで作られたゲームがもっとたくさん出てくる仕組みを作らなくてはいけないんじゃないかと。いろいろな新しいタイプのゲームが次々に市場に出てきて、お客さんであるゲームユーザーは多様なものを楽しめる。そういう状況を作り出せる仕組みが必要なんじゃないかと。そうならなければ、ゲームという存在そのものが、そのうち飽きられてしまうかもしれない。そういう危機感を抱いたんですね。
SCEで分かったのは、株式会社という仕組みの上では新しいアイデアで作られたゲームを継続的にリリースしていくのは難しいということです。
SCEでも新しいゲームを発掘する試みを積極的にしているんですよ。新しいアイデアのゲームを出していこうというプロジェクトも内部では進行していました。しかし、それは継続的に続かないことが多い。
その原因は、株式会社、特に株式公開をしている会社が、活動資金の多くを株主の投資により得ているところにあります。投資をしてくれている株主に不利益を出すわけにはいきません。「会社の業績を悪化させ、株価が低下」という危険はできるだけ避けたいわけです。そう考えていくと、どうしても「企画は魅力的だけれども収支の見通しが立たないゲームよりは、収支計算の立ちやすい続編物を主力にしていこう」という意思決定が進んでいってしまうわけです。
資金を得るための株式という仕組みと、新しいアイデアを持ったゲームを作るというゲーム会社の機能とがぶつかっている。じゃあ、それをクリアする方法はないのか。いろいろと探してみたんです。ひと通りゲーム業界を調べてみて、ゲーム業界にはなさそうだと。そこで、他の業界も調べてみた。
すると、ハリウッドに突き当たったのです。ハリウッドでは、「スター・ウォーズ」シリーズのように続編の大作映画は多い。しかしその一方で、「マトリックス」のようにまったく新しい映画も生まれてくる。しかも、そういう新しい映画に数億円、数十億円といった大量の資金が投入されてもいる。その資金の流れを支えている仕組み、それがプロジェクトファイナンスだったんです。
ハリウッドのプロジェクトファイナンスの仕組みは、できあがった脚本に対してお金を集めるというものです。投資側はまず脚本を見て、面白いと判断した映画制作プロジェクトに対して投資する。制作会社側は十分な制作資金を受け取った状態で、資金には大きなリスクを負わず、映画作りに没入できる。映画がヒットし、十分な利益を得られれば、投資に対してのリターンが発生する。
会社ではなく作品に出資をする仕組み。これを日本のゲーム業界に取り入れられないだろうかと思った。プロジェクトファイナンスをゲーム制作に導入しようと思ったいきさつはこんな感じですね。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」