小池:それでね、これ、全部いろいろなことをメモしてあったんだけど……。あれは去年の初めぐらいか、一昨年の暮れぐらいでしたか、「今度社長を退任して会長になる」とお聞きして。「サイボウズがM&Aをどんどん進めていくので、協力をお願いします」というので話をしましたよね。
もうとにかくM&Aをばんばんやっていく。今まではどちらかというと、攻めてはいましたが、サイボウズというものをある程度極めるという部分で、収益的にもナンバー1になりましたし、安定してきて、次の攻めに入るというようなことで、「とにかくやりまっせ」と言っていたのを鮮明に覚えているんですが。
高須賀:1年前の話ですので、私もよく覚えています。それで、まあ、あの時点でもう既に案件はいくつか決まりかけていました。そこは後の人たちに花を持たせなあかんということで、置き土産のようなかたちで進めていたのです。
小池:どこかでお食事をしたときにそうしたお話しをいろいろお聞きして、でも、驚いたのは会長になると発表までしたはずですが……
高須賀:小池さんとお食事したときには、辞めるなんてこれっぽっちも思っていませんでした。ほんとうに会長になるつもりでしたが、結局それはやめました。3秒で決めましたが。
小池:それはいつ、なんでそういう決断をしたんですか。
高須賀:ええとですね、はっきり言うと、例えばサイボウズという会社はグループウェアの会社で、それでトップになるには……、最終的にIBMからノーツを買う以外にわれわれが世界でトップになる道はないというのが、僕の1つの結論なんですね。
そのためには、時価総額を上げてM&Aを繰り返す、これ以外にもうない。サイボウズで作ったビジネスモデルがそのまま世界に通用しない。通用しないというのは、それを展開していっても世界のトップにはなれない。これはもう僕の中での結論なんです。そのためには、僕が仕事を移らざるを得ない。僕が会長になってM&Aをやっていくんだと、そういう強い使命を持ってあの時お話させていただいたんです。
小池:ですよね。そこはすごく感じました。
高須賀:それしかないんだと。で、何件か(M&Aを)手がけて、まあいいんだ、いいんだと思いながらやっていたんですが、実はアメリカ在住のある人と話をしていて、「こんなオポチュニティある?」というような話になって、そこで昔の松下時代に僕が後のサイボウズになる事業のことを役員会で言ったときのあのイメージが戻ってきたんですね。
そして、話しているうちに「あ、ここにこんなオポチュニティがあったのか」ということに気がづいて、もう辞めることだけ先に決めたんですよ。
小池:じゃあ、次の株主総会で会長になるというアナウンスだけして、その直前に辞めることだけを決めたというわけですか。
高須賀:もう事務局は大混乱ですよね。もう株主への招集通知などは印刷しているし。全部変更。すごく怒られました。
100人ぐらいの会社でしたけど、結局僕が辞めたあとに、古株でずっとやってくれていた人たちが20人ぐらい辞めてしまいましたしね。そのたびに、辞めるなとみんなに言ってまわったんですけど、全然駄目だったんです。
でも、逆に言うと、辞めたひとたちが作った会社が3つぐらいできていますから、まあそれはそれでいいのかなという気もしますけど、確かにいろいろな方に迷惑を掛けたのは事実です。やっぱり、当時は社員の人たちにはほんとに申し訳ないという気持ちでいっぱいでした。
小池:でもね、サイボウズ自体の経営を青野さん以下にお任せしますよと言っても、やっぱり創業社長が会長でいたりするとやりにくいじゃないですか。そういった意味で、きっぱり辞めるというのも、僕はすごくいいデシジョンだと思うんですけど。
高須賀:ただ、多分、表現は悪いんですけど、乗り換えるものがない、すごく魅力的なものがないと人ってやっぱり乗り換えられないんじゃないですかね。今やっていることがなかったら、僕も嫌らしいエゴですけど、(サイボウズに)居続けたと思いますね。いかに自分がエキサイティングになれるかというものを見つけられるかというのは、いろいろな意味があると思いますね。
小池:それから、結局、自分の(サイボウズの)持ち株を住商情報システムにお売りになりましたよね。それは、どういう経緯だったのですか。
高須賀:とにかく、どこに売るか、いくらで売るか、サイボウズの経営陣で決めていいからと。当時の30%ぐらいのディスカウントで譲りましたね。贈与になるかならないか、ぎりぎり。
やっぱり僕は迷惑を掛けていますから、自分の金がどうやこうよりは「彼らがやりやすいところでやったほうがええやろ」っていう親心がありましたね。僕は結局、1株も市場で売っていませんから。まあ今度の事業をやるためだけのお金があればいいだけなんで。
小池:基本的には、その新しいことをやるための資金調達という意味もあったでしょうし、ある意味で退くにあたって、自分が持ち続けるのもご自身で抵抗があったんでしょう。そこは僕、素晴らしいと思います。譲るとはいっても会長職で残ってずるずるというのが、多分世間では多いんじゃないかと思うんです。
高須賀:(サイボウズが)嫌いなわけじゃないですが、会社で花とかもらって歓送会してもらった後は、僕は1回も会社に行ってませんし(笑)。
小池:創業者として、まったく未練はなかったですか。
高須賀:いや、まあ。それは相当悩みました。本当に。僕の人生の中でもトップ3に入るぐらい悩みますね。やっぱりいろいろな人に迷惑を掛けてしまうということと、やっぱり自分の築き上げたものですから、子どもと一緒ですねえ。で、サイボウズの価値観は僕の価値観ですから。分身みたいなものですから、それとの決別なので、それはやっぱり厳しかったですよね。意志決定は早かったんですが、おかしくなるんじゃないかと思うぐらい悩みました。
小池:次に打ち込むというものがなければ、もっとずるずる悩んでいたと思いますが、やっぱり新しくやりたいことが見つかって、そこに頭も切り換えられたから。高須賀:今は、もうまったく次のことしか考えていませんね。
小池:起業家って僕のところにもいろいろな人が、「将来自分で起業したいんです」とか、「今こんなアイデアがあるんです」とか来るんですが、みんなね、話を聞いていると、「もうこれは絶対にいける」と信じ込んでいる人ってそんなにいない。話を聞いているとわかるんですよ。「こんなのを考えましたけど、どうでしょうね」っていう。それで、僕が「これ、いけるよ」と言ったらやってみようかという人が多いんですよ、実は。それで、おもしろいんですかね。
高須賀:昔は起業なんて遠い存在だったけど、わりと身近な人たちがやって成功事例も出てきているようなんで、やってやろうかなぐらいの思いでね。でも、「ほんとにこれだ!」、「今やらなきゃ!」というふうな心の底からオポチュニティを感じている人って少ないんです。
小池:僕は日米で1000以上のビジネスプランを見て、いろいろな人に会ってきましたが、そこまで思い込みを持って、enthusiasm(熱狂)を持っている人たちってなかなかいないんです。
けれども、人生の中でそれに何度かぶち当たるというのはすごく幸せだし、なおかつそういうものがあったら絶対にそれを逃しちゃ駄目ですよ。そう言った意味で、高須賀さんは、今もすごく目が生き生きしていい顔してます。
高須賀:ビジネスを新たに興そうとしている今の時期が一番楽しいですからね。
小池:高須賀さんがそこまで思い込んでいる、新しいプランについてはまだ言えないんですか。
高須賀:はい(笑)。自分の中ではビジネスや事業を明確に思っているんですが、ほんとに偉そうなことを言って恐縮ですが、われわれの業界、コンピュータ業界にはすごいオポチュニティがまだまだたくさんあると思っているんです。僕はそのオポチュニティの中の一部の分野を担おうと思っています。
小池:それは何人かでやるんですか。
高須賀:最初は7、8人ですね。アメリカのパートナーと一緒に、日本からも日本人を連れてきてます。マーケティングの人間をこれから集めていくんですが、とにかくアメリカの会社なんで、アメリカ人を集めます。アメリカ人というか、アメリカにはいろいろな人がいますから。
僕のひとつの夢はある何かで世界のトップになることなので、とにかく何でもいいんです。コーヒーショップでもいいんですが、僕は悲しいかなコンピュータ業界の人間なんで、データベースと言えばOracleさんですし、まあポータルと言えばYahoo!さんがやってはりますけど、僕はいまから始める次の事業で世界のトップになる。その条件を満たすために、それを実現するために僕は式じゃないアメリカに行かなければいけないんです。
小池:アメリカは嫌ですか。
高須賀:価値観がちょっと違う。嫌というか、僕は日本人なんで、日本の生活が一番自分にはいい。ただ、ビジネスを考えた場合に、ビジネスで一番有利な場所に行きたい。そういう意味で言うとサイボウズの時には、私は愛媛が大好きで東京はあまり好きじゃないんですが、ビジネスを最優先して東京に来ました。
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